家に戻る。
家路を辿る友に、ガルシア=マルケスの「ある遭難者の物語」。 10日間筏でカリブ海を漂流した水兵の生還、そしてその後の物語。 マルケスが記者時代に記したノンフィクションであると言われている。
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やはり海で遭難し生還した佐野三治さんの 「たった一人の生還―「たか号」漂流二十七日間の闘い」を過去に読んでいる。
同じ漂流の話でも、その衝撃は、たか号で遭難した佐野さんの方が大きい。 当時の救出映像を見た記憶があることも、その理由の一つかもしれない。
マルケスが描いた遭難者は水兵だから、サバイバル技術を駆使したり、自分のおかれた状況について分析していたりと、かなり冷静である。 物語の狙いも、実は、その後の彼の人生に注目して書かれたた部分にある。
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そして、リアルな遭難の物語の中でさえ、 マルケス独特の時間を自由に行き来する物語世界が、控えめであるが埋め込まれている。 「予告された殺人の記録」で全開になるそれは、 古代ギリシャ劇で発明された、デウス・エクス・マキナに匹敵する。
物語を創造するものは、能力とお好み次第で、幾層にも真実の世界を重ねることができる。 それはまるで、壮麗な城を建設するみたいに。
2004年10月26日(火) 被災
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