失敗や挫折は、苦しみと同時に、人に哲学的な深みをもたらす。
それに比べて、成功体験とは何と人をつまらなく、思考を単純化させ、 また愚かしくさせるものか。
登頂成功に浮かれ調子のHを見て、つくづくそう思う。
身体は確かに下山したが、魂は標高6000m辺りを徘徊している。 そんな高いところにいるくせに、自分の人生を俯瞰しようという気は全くないらしい。
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という訳で、タイミングを見計らい、 あんたはそうして家庭からスポイルされてもよいのかね、と、 山にしがみつくHの魂へ引導を渡すのが、 彼と人生を共にし、またこれからも共にするであろう私の仕事なんである。
その筋書きについては、今、全能力を使って、やや意地悪く考えている。
やりたくはないが、とにかく一度は帰るべき家に戻ってもらわないと、待つほうだって困る。
2005年10月19日(水) 嗅覚を失う 2004年10月19日(火) 運転憎悪
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