某学会誌の「戦争と環境」という特集。 編集委員の巻頭言に、意気込みを感じる。 編集者へ敬意を表しつつ読む。
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加藤三郎という方の論文を中心に読む。 この方は、元環境庁地球環境部長である。
戦争は最大の環境破壊である。
ベトナム戦争で用いられた枯葉剤は、国の全土を汚染した。 湾岸戦争で火を放たれた油田からは、ドイツ一国なみの二酸化炭素が排出された。 イスラエル軍のレバノン空爆は、重油の流出により地中海で過去最大級といわれる水質汚濁をもたらした。
戦争では、長期にわたって健康と生態系に影響を及ぼす環境汚染が、意図的に行われるのである。
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加藤氏の論文で本当に恐ろしいのは、ここから先である。
戦争は最大の環境破壊である。それと同時に、 環境破壊は今後、戦争を引き起こす最大の要因になるということだ。
このことを実証するために、アメリカ国防総省の委託を受けて2003年に民間コンサルティング会社がまとめたレポートが紹介されている。
加藤氏の訳すところによればそのタイトルは、「突然の気候変動シナリオと合衆国安全保障に与えるその影響」なるものだそうである。 以下、加藤氏が紹介する同レポートの内容を抜粋。
「地球規模および地域ごとの扶養能力が低下するにつれ、防衛と攻撃の双方 にかかわる基本戦略につながる緊張が、世界中で高まる。資源のある国ぐに は、自国の周りに資源を保護する事実上の要塞を建設するかもしれない。隣 国と古くから反目状態にある不幸な国々は、食料や清水、エネルギーをめぐ り戦いを始めるかもしれない。防衛の優先度が変化し、目的が宗教、イデオ ロギー、国家の名誉といったものから生き残りのための資源となるにつれ て、これまでは考えられないような同盟ができるかもしれない」
ペンタゴンが、こんなことを考えはじめているんである。
さらに、ご丁寧なことに、各論までついている。 気候変動により起こり得る国際的な緊張や紛争に関するシナリオが、 欧州、アジア、合衆国別に2010〜2030年のあいだに起こることとして、 具体的に示されているのだ。
北京でオリンピックなどやっている場合ではない。
アジアでは、 「2012年に地域の不安定により日本が戦力(防衛力)の強化に動く」 「2030年にロシアのエネルギーをめぐり、中国と日本のあいだで緊張が高まる」、 などと、勝手に予測されているのだ。
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ロウソクを灯して悦に入っている場合ではないし、 鳩など飛ばしても平和はこない。
それならば、何をすればこのシナリオどおりにならずにすむのか決断しなければいけない。
防衛上のシナリオというのは、最悪のケースを想定したものであって、 人々が願う未来としてのプライオリティは、一番低いところにあるはずだ。
2005年10月06日(木) 軍配 2004年10月06日(水) 至福上京
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