ラジオに児童文学作家の山中恒さんが出演していた。 最近上梓した「アジア・太平洋戦争史−同時代人はどう見ていたか−」の紹介をしている。
山中恒といえば、妹尾河童の「少年H」という戦時中を舞台にした自伝について、ちょっとここまでやるのは意地悪ではないかと思われるほどの緻密な歴史的検証を行い、少年Hの記述上の間違いを正した人である。 児童文学作家のくせに面白くもドラマティックでもない膨大なページ数のレポートとして、それはまとめられている。この人らしい狂気がかった仕事だなとその昔思った。
この度上梓されたのは、そんな山中さんの太平洋戦争検証作業の集大成ともいえる本なんである。
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戦争の悲惨さや痛みを訴えるだけでは不十分だと、山中さんは語る。 何故、どのようにして、国民があれほどの被害者となり加害者となった戦争が起きたのか、その実際のプロセスを検証することの方が大切だ、と。
沢山の埋もれた資料があり、知られていない現実がある。 慌しい引越しのように置き去りにされた事実を残して、先の戦争は現代社会に位置づけられているのらしい。
500ページもの本なので読みにくいかもしれませんが、とはばかりつつ、 かつて自分の読者だった若い大人達に読んで欲しいですね、とラジオの向こうから語りかける。
大人になってもなお、「昔のこども」として今の自分に相応しいメッセージを投げかけてくれるこの児童文学作家の優しい気持ちに嬉しくなり、私は必ず一読しますとラジオに向って思うのだった。
2004年07月10日(土) 嫌な死に方
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