2005年01月28日(金) |
ホルマリン漬けの人権 |
国の隔離政策下にあった国立ハンセン病療養所5カ所と ハンセン病研究センターで、入所者の胎児や新生児を ホルマリン漬けにした標本114体が残されていることが 27日、厚生労働省が設けた第三者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」の調査で分かった。というニュース。
* 詳細をネットで調べようと五分か十分渡り歩いただけで、 元患者である方の話から、弁護団の出張尋問の記録、 そして検証を妨害するエピソードに至るまで いくらでも目にすることができる。
ホルマリン漬けにされた胎児の月齢によっては、 堕胎ではなくて、殺人であると断定されるものも多い。 産声を上げる赤ん坊の顔にガーゼをかぶせられ、連れて行かれました、 という証言。
たいがいの社会事象に対しては、爬虫類のように感度が鈍い自分であるが、 自分の痛点は−そういうものがあるのだとすれば−ここにあるんだ、と はっきり分かる。 これ以上情報を入れたら、吐き気が本当のものになりそうだ。
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いちじるしい人権侵害は、起こりうる。 らい病というカテゴリでくくってはいけない。
私は想像する。 天国のような名前のついた療養所の園長は、この世界では天皇で、 職員は天皇のために忠誠をつくすことが職務だと思っている。 そして、患者というのは自分よりも下のものだと思っている。
彼ら彼女らがもつ喜びや悲しみの感情というのは、 自分のとは別の種類の、何か取るに足りない下卑たものであり、 想像力を働かせる前に目の前から処分するのが適切だと思っている。
「そういう決まりになっていますから」という、 知性も誠意も想像力のかけらもない納得を他者に強いる世界。 己の小さな存在意義や権力保持のために、他人の命を犠牲にして平気な社会。
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己の小さな存在意義と権力保持。 巨大な権力構造の重要パーツであり、 ご近所でも会社でもサークルでも家庭内でも、どこでも手に入れることができる。 人を損なわせ、貶め、傷つけるシステムのエンジンだ。
そして人間は、小さな脅迫と圧力が繰り返される環境下で、やがて 決して手放してはならない自尊心ですら「そうか、そういうものか」と投げ出してしまう、という事実。
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そういう、私が心の底から嫌悪するこの世界は、残念ながら起こり得る。 どこが震源地になるかはわからない。
2004年01月28日(水) ネガの虫下し
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