浅間日記

2004年10月16日(土) 前腕部怪奇譚

昨日、Hの夢を見た。
Hの前腕部の夢を見たと言ったほうが正確かもしれない。

長らく旅に出ているHの、影膳ならぬ影床を据えている。
つまり寝床を一人分、余計に敷いている。
ただ単に、広々眠りたいだけでそうしているのだけれど。

夢の中で、私はその影床に手を伸ばしていた。するとそこには、
間違えようのないHの前腕部があり、私はそれに触れたのである。
帰ってきているのだ!ただいまも言わずに布団の中にいる。

事実を確認するためとはいえ、朦朧とした意識を覚醒させるのは嫌な作業だな、と思いながら、よく考えてみたらそんなことは在り得ないから、
やはりHは帰ってきていないのだと気付いた。

夢のようだ、と言うのは夢でない時に吐くべきセリフなのに、
夢のようだと思ったら夢だったというオチは、滑稽だな、
と思い可笑しくなった、まさにその時まで、私は夢の中にいた。

そして、あのHの前腕部の生暖かい筋肉質な感触だけを残して、朝になった。



デリーまで下りてきたHから、予定よりも遥かに早く帰国できそうだ、
という連絡が翌日入り、これだったのかと思う。
察するに、腕だけ先に、家へ帰ってきたのだろう。
ボルヘスの小説のように、時空を超えて。



しかしだからといって、諸手を挙げて嬉しい訳ではない。
私は急いで、人に会うなどの色々な予定を、
とりあえずキャンセル又は調整せざるを得ない。

HはHで、万感の思いで家路を辿るのであり、
それなりに出迎えられることを期待しているのだろうけれど、
それにはそれなりの心構えや準備というものがあるのだ。

だから、帰国予定日までゆっくりタジマハルでも見物しててくれ、
とも思うのである。


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