私が好きなレースはボートレース(競艇)だか、母の好きなレースは編まれたほうのヒラヒラしたレースである。
私が子供の頃など、家庭内は黒電話やドアノブ、テーブルやカーテン、コースターなど各所にレースは我が物顔で存在した。 女子として誕生した私の衣類も下着から靴下、ブラウス、果てはスカートの裾まで母の意向によって有無を言わさずレースまみれとなる。
やがてこの母レーサーに反発するかのようにアンチレース派となった私は、自分の人生からヒラヒラのレースを排斥。女性の下着に絶対的象徴として入り込み続ける微細なレースですら拒絶するあまり、その否定的感情はついに肌にさわるレースによって蕁麻疹を発症するレベルにまで至る。
さて、自分の収入によって衣類を自由に購入できるようになり、ようやくレースとは無縁の人生を歩めるようになったわけだが、しばらくして我が家にとある事件が起こる。 下着泥棒である。
「ねーえ、最近私の下着が減ってるんだけど知らない?」 「え、私レース苦手だからママのとは区別できてると思うけど」 「下着泥棒?」 「かもねー」 「やーだー」
この会話から数日たったある日、私が深夜ご機嫌(ヘベレケ)で帰宅すると、門から中学生か高校生かとおぼしき男の子が出てくるのに出くわした。 「え、こんな時間に何か用?」と私が問うと、彼は悪びれることなく「おねえさん、可愛い下着つけてるね」とおっしゃる。 はて?可愛い下着は所有していないので肯定しかねつつ「ちょ、あんたどこの子なん?」と重ねて問うと、彼は笑いながら走り去っていった。 走り去るのはいいが、あとを追うと彼は数軒先の家に帰って行くではないか。
おやまあである。
翌日母にこのことを告げると、あわてて洗濯物を見に行き「あーっ、昨夜干してた私の下着がなくなってるー!」と叫ぶ。
……少年よ、君は20代前半の私(当時)でなく君のお母さんより年上のおばちゃんの下着でシコシコ欲情していたという現実を受け止めることができるか?
とりあえず母のピンクや白のレース付きヒラヒラ下着は彼の手元にあることが判明した。これは青春の手土産に差し上げるとして、この日から母は物干しの外側をシートで囲うようにし、下着を夜間外に干すことを止めた。
ちなみに彼は数年後警察のお世話になった模様。 いやはや性癖とはげに恐ろしきものよ。おばちゃんの履いたレースのパンツごときで人生を棒に振るとは。
今日のワンポイント→下着泥棒はピンクや白のレースないしはリボン付き下着を好んで盗みがち。
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