Gという仕事仲間が居た。
私とGはお互い当時の派遣先との契約開始の日からの顔見知りで、
勤めはじめの頃はまだ人員も思うように集まっておらず、
話をする対象が限られていたので、交わす言葉も多かった。
Zは、毎年お中元とお歳暮の季節には必ずこの会社に
派遣社員として働きに来ていたのでパートのおばさんや
社員のおじさんたちとは顔見知りで仲も良かったが、
今回はその前に契約した他の派遣先との契約期間が切れてからこちらに来た
・・・というコトもあって契約開始の日から2週間遅れでやってきたから
当然、ZとGを比べると、実際に私が接した日数はGとの方が多い。
その分、私はZよりもGとの会話に慣れていた。
4月29日の日記で、
『同じ派遣会社の兄ちゃんに食事に強引に誘われたり
言葉のセクハラ食らったりして
その度に言葉の連続コンボとかを
10倍返しな勢いで食らわせたり(以下略。)』
・・・と、書かれていたのが彼、Gである。
まあ、ありていに言ってしまえば女にモテる類の人間ではなく、
顔はさほど悪くないしプロポーションも悪くはないし太ってもいないものの、
何故か何処かしら服装も野暮ったく、人と会話するのにも慣れていない風で
どちらかと言うと女に慣れていない類の男だった。
「顔も悪いし背も低い・・・着る物の個性だけがやたら強烈で、
『なんでこの人が?』と思うのにやたら女に慣れていて、
どこか瓢々としている。」・・・というZとは正反対の人間。
一度女に愛想を良くされると、刷り込みされたヒヨコの如く
その女に期待感を抱いて猛烈なアプローチをし始め、
結果「間違い君」として鬱陶しがられて玉砕するタイプの男だ。
私は自分がバイセクシャルなのもあって、これと言って性別に頓着が無く、
友達であれば男でも女でも特に接し方は変わらないし、
彼氏・彼女に対しても性別で接し方は全くと言っていい程変わらないし、
一旦固定した恋人が出来てしまえば男も女も皆ただのお友達だったから
誰にも過剰な色気を振り撒いたり、いい男・いい女を漁る必要も無かった。
それは仕事仲間であってもまた然りで、
「ココは仕事をしに来るトコロ。恋人探しに来てるワケじゃないし。」と
一旦割り切ってしまうと、それが男であろうが女であろうが、
見目が悪かろうが良かろうが、どうでも良くなってしまい、
どの人にも同じように普通の顔をして接していた。
(極端に風呂に入って無くて汚いとか臭いとかは別件。)
どの人にも「まあ、仕事仲間だし。」・・・の精神で。
はじめの頃はZも居なければ「Zを中心にした仲間」みたいなモノも
当然無かったから、当時の私を「仲間」として拘束するモノは何も無かった。
だから誰とでもごくごく均等に「話しかければ応えるし冗談を言われれば笑う」
という雰囲気の良い関係を作っていた。
どうせ1ヶ月やそこらの関係なので軽い関係で良かった。
そこに「『どうせ汚れるんだから』と適当な服を着て、
適当な化粧をして髪の毛をひっ詰めて、
ギリギリと歯を食いしばって人より重いジャッキを引いていたり、
両肩に一枚ずつパレットを担いで走る男勝りの私の姿を見て
誰も『彼女は“女”である』という風な意識はしないであろう」という
ある意味ズボラな打算がプラスされた気軽さが手伝って、
頑張ってお友達を作るのが面倒な私に
「1ヶ月限定の気楽な仕事仲間」としていい関係を作る努力をさせていた。
どの人にも愛想笑いするし、どの人とでも適当に話をする。
もちろん仕事の話を無視するようなコトも無い。
その代わりに極端に誰かと親しげにするコトも無かった。
・・・どうやらGはそんな「誰にでも変わり無く接する私」を
「こんな自分にも愛想良く接してくれる女の子」として
自分の頭にインプットしてしまったらしく、
働き出した当初は彼と距離を置くのに随分手を焼いた。
随分とプライベートなコトまで平然と質問するGに嫌味を言って
凹ませたり怒らせたりするのは日常茶飯事だったし
「食事くらいしてくれてもいいじゃないか!」と食ってかかるGに、
思い切り侮蔑の表情を浮かべながら煙草の煙を吐いたコトもある。
しかし彼は何度も、距離を縮めすぎて撥ね付けられ、また距離を縮め、
縮めすぎてまた撥ね付けられるを繰り返していく度に
徐々に私との適切な距離を量るコトを学習していった。
その結果、Zがリーダーとして職場にやってくる頃には
仕事場で(男と女では作業内容も作業場所も違うので)出会うと
「よぉ」とお互い手を上げたり、
私が重いパレットを引っ張ってスロープを登っていると
「やってるね(笑」とGが笑い、私もニヤリと笑って見せるという程度の
簡単なコミュニケーションをする、
ホントの「普通の仕事仲間としての関係」になっていた。
若干ムラッ気がすごくて、たった今笑っていたと思ったら
一言二言交わした瞬間にもう不機嫌になっている・・・とか、
商品番号を書いて付箋を貼ってくれないと何が何だか判らない
という荷物にサボって付箋を貼らなかったり・・・という短所はあったが、
まあそれも私は「まあ、こういう人も居るよね。」と軽く済ませて、
さして気にも留めないでいた。
どうせ1ヶ月やそこら・・・という関係で相手の欠点を直して
良い関係作りの為に多大なる労力を裂くのはこれまた面倒だったし、
やたら深い所まで突っ込んで話をしてまた勘違いされるのもイヤだったし。
それに就職活動の為に大阪に行ったらお土産を買ってきて皆に振舞ったり、
仲の良いもの同士しか挨拶をしなかったりするこの職場で
きちんとあちこちに挨拶しながら出勤してくる律儀さもあったから、
まあ、差し引きして目を瞑ろうと思えば瞑れない短所では無かったのである。
・・・そしてそんなGを、Zは極端に嫌っていた。
『アイツは性格が悪くて仕事もきちんとしないから、
この職場で働く度になんだかんだと衝突する因縁の仲なんだ』
・・・と、Z本人は言っていて、
周囲もそれを鵜呑みにしてGのコトを極力避けていたが、
私の目には、『ZとGの仲が悪い』というよりも、
『「ZがGを軽視している」のがそこはかとなく雰囲気に滲み出ているので、
それを感じた気の小さいGがなおさら萎縮して虚勢を張ってZに対して
頑なになり、その可愛げ無さを更にZが気に入らずに自分で神経を逆立てては
怒っている無限ループ状態』・・・という風にしか映らなかった。
まあ、自分の性格の悪さは更にその上を行くと思っていたので
別段何とも思っていなかったが、Gの性格も悪いと言えば悪いし、
仕事に関しては彼とは同じ仕事をしていないので出来るかどうかは知らない。
私には別段Gを庇う義理も義務も思い入れもなかったし、
当時はZのコトも嫌ってはいなかったので、
キッチリと「そんなコトは無い!」と言ってGを擁護するコトは無かったが。
・・・しかし、嫌いなら寄らなきゃいいのにわざわざ話仲間とつるんで
あれやこれやとチヤホヤGに話しかけ、食いつきそうな話を振っては観察して、
話すのは苦手だが話すのは嫌いではないので戸惑いつつも
話かけられて嬉しそうにするGの一言一句を覚えていては
後でこっそり馬鹿にしていたり、
Gがあちこちに行って買ってきたお土産にも、本人が居ない所で色々と
もっともらしいケチをつけて食べなかったり、
何かにつけてGの話し方や服装の野暮ったさや、
仕事を一緒にした時に如何にGが気が利かない人間であったかを
散々論って嘲笑していたり・・・するZを観察していると、
イヤでも「やはりZが一方的に相手を嫌っているのではないか」と
思わざるを得なかったのだ。
しかもそれもZとはじめて会った当時は
「・・・リーダーがそんなコト言っていいのかな(−− )」と思いつつ
「本音をぶっちゃけるリーダーが好き」な周囲の空気を無視して
そんなコトを口に出しても後々居心地が悪くなるだけなので、
Zの言葉を「あ、そ。仲悪いのね。」と額面通りに受け取るだけで、
特に参考になりもしない知識として頭の片隅に置き去りにしていて。
私にとってふたりの関係など、首を突っ込めば面倒くさいし
突っ込んでもさほど面白くも無い、
自分の興味の対象外の、くだらないモノだった。
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