朝の4時、甥っ子の泣き声で目が覚めた。 甥っ子は私の両親と一緒に寝るのだが、寝室の戸を開けてふにゃあと泣くので、私の部屋まで聞こえてしまう。 さっさと寝かし付けて私もせめてあと1時間は眠りたいので、出来る範囲で要求に従う事にする。 「お茶飲む?」「うん」 甥っ子を抱えて階段を下り、台所の椅子に座らせる。 「コップはこれでいい?」「うん」 冷蔵庫からお茶を出そうとすると「ううん」。 お茶じゃなくてジュースを飲みたいらしい。さっきはお茶って言っただろうが! 「じゃあ少しだけだよ。いい?」「うん」 コップに林檎ジュースを水で割って入れ、甥っ子に差し出すと「これ、これ」と、湯呑みを指差した。さっきはこのコップがいいって言っただろうが! 中身を指定の湯呑みに移して差し出すと、今度は飲んだ。一気飲み。もっと味わってゆっくり飲もうよ……誰も取らないからさあ。 「もう終わりでいいね?」「ううん」。まだ飲むんかい!さっき少しだけだぞって言っただろうが! ほんの少しだけ継ぎ足してやると、「これ」と言って、今度は模様のついた別のコップを指差した。どの入れ物で飲もうと味は変わんねえよ! 「駄目、これがいいってさっき言ったんだから、これで飲みな」と言ったら、ふにゃあと泣き真似をした。騒がれると面倒なので、仕方なく言う事を聞いてやると、大人しく飲んだ。 「よし、じゃあじいちゃんとこに戻る?」「うん」 「自分で階段のぼれる?」「ううん」「抱っこするの?」「うん」 重い甥っ子を2階まで連れて行って、やっと布団の上に転がしたと思ったら、またムクリと起き上って「ちゃーちゃ」と言う。今飲んだばっかりだろうが!! 面倒だが泣かれると更に面倒なので、また抱きかかえて階段を下りる。膝が限界……。 そしてまた飲むの飲まないのを繰り返し、最終的に甥っ子が寝付いた時には、5時になっていた。 ここで二度寝したらきっと起きられないと思ったので、顔を洗って荷造りをする事に。 昨日干した服は生乾きだったが、袖に手を通した。もう着たまま乾かせばいいや。 母に頼んで駅まで送って貰い、切符を買って帰途についた。
家に着くと、まず窓を開けて掃除機をかけた。 台所も結構臭うので、洗い物と生ごみの始末をしてから、主人の入院準備に取り掛かった。前回の入院から8箇月、必要な物は大体覚えていたので、それらを纏めて鞄に詰めて、車を運転して病院に向かう。 平日なので駐車スペースがなかなか見つからずに難儀する。誘導員はいるが全く誘導してねえ!役立たずが! だだっ広い駐車場の隅っこに車を停めて、最長距離から正面玄関を経由して漸く受付に辿り着くと、訪問者は名前を書けと言う。クッソ面倒くせえ! この時点で既に苛々が最高潮に達している私。名前を殴り書きして叩き付けるようにペンを置き、教えられた病室を訪ねると、主人が病衣を着てベッドの上に座っていた。 「あれ、もう来てくれたんだ。早かったねえ」 「朝一番の便に乗って来たの。連絡しようにも出来なかったから」 と微笑みを浮かべながら、自宅の枕元に置き去りにされていた、主人の携帯電話を手渡した。 「財布は持って来たんだけどね、携帯の事は忘れちゃってて。なんかもうそれどころじゃなくってさ……」 と、昨日の経緯を話してくれた。 熱があったので午前中に病院に行き、午後からは自宅で寝ていたが、震えが来て、これはおかしいと感じて救急車を呼んだという。 自分でその判断が出来て良かったよ。私が帰宅した時にはもう……じゃなくて本当に良かった。 あまり食欲が無いと言うので、主人が半分残した昼食は私が貰った。ラッキー。
病院を出て途中で主人の職場に寄り、上司に入院の書類に記入して貰った。近くに親類がいないので、前回も上司に保証人になって貰ったのだった。 帰宅してからは、掃除の続きと洗濯。 他に片付けなど色々やっていると暗くなって来たので、書類を持って病院に行った。狙い通り夕食の時間に。 しかし今度は私の口には入らず。あまり美味しくないと言いながら、主人が全部食べた。それだけ元気になったという事だろう。 でももう少し入院してて欲しいな。退院するとすぐに仕事仕事で忙しくなっちゃうから、暫くゆっくり休んで欲しいのだ。 それにしても、主人の髪の毛がベタベタ。明日は風呂かシャワーを使えるように頼んでおくようにと言い残して、病院を後にした。
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