肉体労働(雪かき)を終えて飯を掻っ込み、私は慌てて出かける支度をした。 知り合いから、バイオリン発表会の券を貰ったのだ。 貰ったからにはお花かお菓子でも持って行くのが礼儀なのだが、思ったよりも雪かきに時間を取られてしまったため、買いに行く時間が無いので手ぶらで出かける。
私は弦楽器を弾けない。 弦を押さえる指先が痛くなるので駄目なのだ。 それでも、聴くのは割と好きだと思っていた。 思っていたのだが、独奏が始まって暫くすると、これは……
苦行。 多少下手でもピアノは聴けるのだが、バイオリンはそうも行かない。 ピアノならドと♯ドの間に音は無いが、バイオリンはその間にある無限の音を出す事が出来る。
勿論これは良し悪しではなく、その楽器の特性である。 私はピアノを弾いていて、それが普通だと思っているから全く判らないが、うちの妹など、和音が綺麗に聞こえないからピアノは嫌い!などと言う。(それはピアノが下手な言い訳じゃないのかという突っ込みをしたくなるが) ピアノは1オクターブの音を12個に均等に分けている(平均律)。 1の和音(ドミソ)を出すには、真ん中のミの音を少し低く取ると、音が唸る事無く綺麗に聞こえるのだが、ピアノではそれが出来ない。 ミの音だけ低く調律しても、和音だけ弾く訳でもないし、ハ調以外の曲には使えないからだ。 一方、弦楽器や管楽器は演奏者がその都度音程を自由に調整出来るので、出す和音に応じて音を上げたり下げたりして、美しい響きを作り出す事が出来るのである。 勿論、奏者にそれなりの技術と耳が必要な訳だが。
音程の合わないバイオリンの演奏を聴くのは、音痴の歌を聞くのと同じである。 いや、音痴の歌はまだ愛嬌があるからいいが、それよりも遥かにきつい。 完全なる独創ならまだいいが、ピアノ伴奏が付くとピッチのずれが余計に目立ち、聴いていて頭痛までして来る始末。 現役音大生だというその教室の卒業生の独奏も聴いたが、正直言って、この程度でも音大なのか……と思ってしまった。 曲にもよるのかも知れないが。(だって本人達の力量よりも、明らかに難しい曲ばかりだったのだ) 1人だけ、安心して聴けるバイオリンがいたが、その人はプロの演奏家だという。流石。
まだ独奏はせず合奏だけに参加する程度の、小さいバイオリンを使うような小さい子供は、下手でも見ていて可愛いから許そう。 いっぱいいい音楽聴いて、頑張っていい耳を持てよ〜。
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