天上天下唯我独尊

2005年10月12日(水) 冷血妻

主人はバスに乗るのが嫌いで、職場の1泊旅行でも自家用車で行きたがる。
私もバスの匂いは苦手だが我慢ならないほどではないので、新婚旅行の時、空港に向かうバスの中で彼が苦悶の表情を浮かべたのには驚いた。
本当に嫌いらしいという事が判ったので、私の実家に行く時も、2人だと割高な鉄道を使わざるを得ないのだった。
バスならもっともっと安いのに!

そんな不経済な主人が、週末に同僚の結婚式に出る事になった。
遠方なのだが、職場からも大勢出席するため新郎がバスを用意するというのに、彼はやっぱり自家用車で行くと言う……。
私から見たら、我慢しなくてもいいような所で我慢するくせに、ヘンな所で協調性が無いなこの人は。

「シオンも行こうよ。僕が式に出ている間に、久し振りに都会の空気を楽しんでおいで」
と主人が言ってくれたので、迷ったが、一緒に行く事にした。
「で、やっぱり車?」
「うん。皆バスで行くって言うけれど、乗った途端に宴会になるからな。付き合いきれません」
「そか……なるほど」
主人は体質的にアルコールに弱く、お酒の匂いも嫌いなのだ。
時々私が酎ハイを飲んで、気分が良くなって彼に抱き付こうものなら「アッチ行け」と言われ、不意打ちでキスしようものなら露骨にイヤ〜〜〜な顔をされるぐらいである。

「貴方って本当にバスが嫌いよね。修学旅行とかどうしてたの?」
「あんまり覚えてないけれど、我慢してたと思う。僕より先に友達が吐いてたしな」
「貰いゲロしたの?」
「ううん、『大丈夫だよ』って声を掛けて、後片付けしたなあ」
「ええーっ、偉いのねえ、バスに弱いのに」
「だって可哀相でしょ。自分だったらと思うと、そうして欲しくない?」
「う……うん、そうだね。でも私は、仮令そういう立場になったとしても、顔で『大丈夫よ〜』と笑って、心で『畜生、何で私がこんな事をっ』と怒るんだろうなあ」
「うん、シオンはそうだろうね……。でも僕には、『自分で洗え』って言ったよね」
「え?」
何の話?と私がぽかーんとしていると、
「覚えてないのか。結婚した年の夏に車で旅行した時、」
と、彼の話を聞くうちに、私の眠っていた記憶が呼び起こされた。

纏まった休みが取れたので、主人が車で旅行に連れて行ってくれたのだ。
しかし間の悪い事に、彼は体調を崩していた。
お腹が痛いと言う彼のために、我々は早目に宿に入った。
それなのに、彼は間に合わなかったのだ……トイレに。
「ごめん、パンツ汚しちゃった。ズボンも少し」
しょんぼりしてトイレから出て来た彼に、少しだけれど旅行の日程を狂わされた私は、
「そのままそれ持ってお風呂にどうぞ」
と冷たく言い放ったのだった……。

「思い出した! そう言えばそんな事もあったわね。今の今まですっかり忘れていたけれど」
「あの時シオン、何だか怒ってたよね。『自分で汚したんだから、自分で洗ってね』って言われたし」
と彼に冷たさを指摘され、
「じゃあどうしろと!? 汚れ物を私に洗って欲しかったの!?」
と逆切れする私。
「ううん、そうじゃないけれど……」
「私だって、貴方が死にそうだったらそれぐらいしますよ! でも動けたからああ自分で出来るなって判断したんじゃない。何かご不満でも! キー!」
「そりゃ動けたけど……。まあシオンはこういう人なんだな、って思った。悪い意味じゃなくてね」
そうは仰いますが、どうあっても良い意味には取れませんがっ。
ごめんね、冷たい妻で。
貴方は私のおむつの世話もするよと断言してくれるけれど、私は……出来るのかしら(汗)。


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