日々是迷々之記
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その日はヒマだったが案の定夕方になるとばたばたと忙しくなってきた。ふと電話がかかってくる。何故か営業に出ている所長から私へ電話だ。
「あんなぁ、なおぞうさん。ちょっとビルの下のパンジーまで来てくれへんか?」パンジーはうちの会社御用達のつけのきく喫茶店である。あることを予感しながらわたしはパンジーへ向かった。あることとは「今回の契約で終わりにしてね。」ということだ。うちの会社みたいになんもかんも筒抜け構造だと込み入ったことを話すにはサテンに行くくらいしかないんだなぁと思っていたらパンジーに着いてしまった。
「ああ、おつかれさん。」「いえ、おつかれさまです。」挨拶をして店内へ。昔ながらのコーヒー喫茶だ。重厚なコーヒーテーブルがいい感じである。「なおぞうさん、何飲む。おねぇちゃん、わし、コーラな。」そうかおっちゃんもスーツ着てコーラなんか飲むのだなと思いつつアイスコーヒーを注文した。
「んでな、なおぞうさん。社長、声でかいから知ってると思うけど、うちの会社な。ごっつ厳しいねん。でな、パソコンの何やようわからんけど自動でやるようにするねんて。便利になるんやから人切れ、そない言うてくるんや。なおぞうさんはみんなともうまくやってくれてるし、海外に連絡あるときなんか任せっきりや。ほやからおって欲しいねん。せやけどな、わかってくれへんか?」
コテコテ度が高く難解だが、要はこういうことである。「景気が悪い」→「あえてプログラムで自動処理をするシステムを導入する」→「お金かかるし人員削減だぁ」ふむふむ、やはり私の思ったとおりだ。
「はぁ、わかりました。で、引継は誰にやりますか?」と、私は答えた。すると、「あんた。ええんかいな?次探すの大変やろ?もしアレやったら忙しいときにでもバイトで来てもらおうかと思っとったんやけど。」それ、私のためでなく会社のために言ってるやろと思いつつ丁重にお断りした。
「契約終了まで1ヶ月以上あります。これだけあったらまず確実に次の仕事は見つかりますのでご心配なく。」事実である。登録している派遣会社のメールサービスに入っているので、一日2件ほどの情報が入るのだ。その中から、能力アップにつながる、家から30分以内、英作文と英会話両方生かせる、ちゃんと保険に入れる、などと条件をつけて選別してゆくのである。
「あんた、ええ根性してるなぁ。そんなうまくいくもんかいな。」どうも私が虚勢を張っているように感じるらしい。「○○さんかて、うち来る前4ヶ月職探ししてたって言うしやな。」
○○さんとは新入社員の24歳の子である。例の「☆なまえ☆」という名前のフォルダがデスクトップにある子だ。客観的に仕事能力だけで考えるとそれもうなずける。入力の仕事をしていて、拡張子を知らない、エクセルで次のセルに行くときキーボードを使わずにいちいち目的のセルをマウスでクリックしてるようではなかなか仕事も見つからないだろう。入社して、パソコンの使い方を教えてくれる会社ってあるんだろうか?
話はそれたが、その辺はその人次第なので、「まぁ、運もありますからね。職探しは。」とやんわりと答えておいた。これでとにかく7月9日には自由が訪れるのだ。ビバ!解雇!
が、しかし、その後の「新システム導入」にまつわるドタバタにつきあわされるとは思ってもみなかった。ブレーンのいないワンマン社長のITかぶれの素人思考で、システム屋さんに食い物にされる。絵に描いたような世界をかいま見ることになるのだ。
これから一ヶ月強。日記で逐一お知らせしていこうと思う。
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