日々是迷々之記
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いつものように進まない仕事にいらつきながらがしがしとキーボードをたたいていると、所長が電話で話すデカイ声が聞こえてきた。その話の内容に思わず私は聞き耳をたてていた。
「あの子はやめさせたんや。一ヶ月派遣で雇ってから社員にしたんやけどな、派遣会社にその子の年収の何パーセントかを払わなアカンねん。ホンマに採用するんやったらな。試用期間は派遣期間も含めて3ヶ月らしいわ。いやー、かなわんで。実務経験ないから1からモノ教えなアカンわ、余計に金はかかるわ…。」
「所長、声でかいわ。」私の直属の課長がつぶやいた。私が聞いているのを知っているからだ。
しかしあけすけな男だ。最初から、実務経験のないことも、引き抜いたら派遣会社に支払いが発生することもわかっていたはずなのに。そんな気まぐれな行動で一人の人間のはじめの一歩を翻弄していいと思っているのか。
こんな所に長居は無用だ。エクセルの関数をマスターして、有給休暇が発生したら辞めよう。
って、その前に解雇されるかも。明日、明後日と職安経由で来た人を面接するらしいし。
こういう下らない状況で、先が見えないのは面白い。見届けてやろうって感じだ。解雇されてもこっちは特に困らないし。
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