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日常茶飯事×日常茶目仕事
アキラ
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2004年04月07日(水)
07+キメラ

確かに在ったのだ、人間だった時間も…。

「ケイはケイだ」

いつもの言い争いの後、ショウはよくその言葉を口にした。
子供の言い訳の様に聞こえないでもない。
でもいつも、泣きそうなのをこらえて言い切るショウに
それ以上何も言えなくなる。
小さくため息をついて
膝を抱えるショウの頭を撫で

「遊んで来い」
微笑いかけてやんわりと部屋を追い出す。
独りきりになった部屋で天井を見上げて
けれど心は遥か遠く、記憶の隅で
埃を被った太陽を必死に思い出している。

確かに在ったのだ、人間だった時間も…。

人でなくなってしまった身体は
細胞を死に至らしめるその至高の輝きを
思い出させてはくれそうになかった。
曖昧な輝きしか思い出せずに断念して意識を手放した。
悪夢の中に見る
ルカを焼いたあの輝きは
こんなにも刺さる様に鮮烈で痛いのに。

「ケイはケイだよ」

何処か懐かしい香りがした。
ふわりと温かい気配がする。
泣きたくなるような優しさ。
太陽の香り。
外から戻ったショウが覗き込んでいる。
思わず下からぎゅうと抱き締める。

「お日様のにおい、すき?」
得意げなショウの声に、小さくうんと返事をして
そのまま眠ってしまいそうだった。
幸せの香りだった。

刺さるような太陽の輝き。
幸せを呼び戻す太陽の香り。
どうしてだろう?
畏怖の感覚と憧憬の感情
矛盾するそれらに
相反する何かに
内側から引き裂かれてしまいそうだ。

「ケイはケイだよ」

ショウが細い腕で
俺の頭をそっと包み込むのがわかる。
ずっと遠い昔に感じた庇護される記憶に
今は何もかもが誤魔化されて
夢も見ずに眠った。

「ケイの心はケイのままなのに…」

まどろみの中にショウの声が聞こえた気がした。


キメラ 1 [英 Chimera; 希 Khimaira]

(1)ギリシャ神話で、
ライオンの頭・ヤギの胴・ヘビの尾をもち
口から火を吐く怪獣。キマイラ。

(2)生物の一個体内に同種あるいは
異種の別個体の組織が隣り合って存在する現象。
また、その個体。接ぎ木の癒着部位の芽など。
また動物では若い胚(はい)を融合させてから育てたもの。