みかんのつぶつぶ
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| 2002年10月22日(火) |
morning moon |
朝、満月だった。 冷えた空気と月。しばし茫然とした。でも窓をいっぱいに開けて空気を思い切り吸い込んで、匂いを感じた。キリキリと肺の中に流れ込む酸素。彼の口に挿しこまれた管を思い出していた。痰を吸引されたとき嗚咽しながら涙ぐむ顔を思い出していた。吸引が終わって涙を拭いてあげたときに見たその潤んだ瞳。ありきたりだが、純粋な、とても純粋な瞳の色になった彼が、とても切なかった。
病室へ泊まるようになってから、朝5時に病室を出て、ほの暗い自販機で珈琲を買い外のベンチで煙草を吸う。まだ暗い空に浮かぶ月を見上げながら思いきり空気を吸い込んで、そして月へ向かって大きく吐き出す。ため息をつきたくないばかりに深呼吸をするのだ。
あの日も。いつもと変わらぬ朝を迎えたいと願う想いで外へ出た。白い息を吐き出しながら新聞配達の人が通る。元気な頃、彼はいつもあの人から朝刊を買っていた。退院するといったらとても残念がってたと聞いたことがある。
新聞屋さん、彼はまたこの病院に入院してるんです。でも、あまり元気じゃないんです。 追いかけて伝えたい衝動にかられる私がいた。 誰かに、聞いてもらいたかったんだ。
見上げた空には、三日月が尖っていた。うっすらと朝陽の昇る気配が見えるビルの隙間とのコントラスト。その風景があまりにも美しすぎて怖くなった。三日月の光に怯えた。街の上に横たわる大きな三日月が、予言者に見えた瞬間だった。
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