みかんのつぶつぶ
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病室へ行くと、珍しく眠っていた。 気配を感じて目を開けたが、また意識が遠のいてゆく。 ?おかしい… 目が覚めて起きあがった様子を見て、愕然とした。 左の腕は、ぶら下がっている状態なのだ。 日を追うごとに力が抜けて行く様子はわかってはいたが、 今日は、もう、左腕がないのと同じ状態。 トイレに行く姿を見ると、左足も、動きが鈍い。 まさか!と思い、すぐにナースステーションへ報告に行った。 脳の腫瘍が大きくなっているのではないかと。 主治医は手術中のため、終わり次第報告をするというので、待つことにした。 午後5時。 ナースステーションへ呼ばれて、主治医からの説明を受けた。
「私達に言わないですよねー、具合の悪いことを・・・」 主治医の第一声。 そうなのだ。 「問題ありません」 いつも元気に愛想よく答えているのだ。
「日ごとに症状が悪くなってきているっていうのは、 これはちょっと、一刻の猶予もありませんよ」 先日撮った、脊髄のMRI画像を見ながら話しは続いた。 脳と違って脊髄は、腫瘍が0.5ミリ育っただけでも重い症状が出てくる。 左腕、次は左足のマヒ。 しかしもっと懸念されるのは、突然呼吸が止まること。 看護婦さんも気が付かないうちに、止まってしまう可能性も高い。
その場合、蘇生術として人工呼吸器をつけるかどうか…早急にご家族で話し合って決めて欲しいと…
このひと月が山であろうと、前医から聞かされたのはちょうど一ヶ月前。 状態も、聞かされていた通りに進行している。 人工呼吸器についても、避ける方向で話し合っていた。 だから転院を決心したのだ。 それなのに・・・
「抗がん剤は全身に効くから、飛び散った腫瘍細胞にも効いて、悪いものは全部無くなるんでしょ」 点滴を取替えに来た看護婦さんに、彼がそう話していたのは、ついさっきなのに・・・
全て、もうわかっていたことなのだ。 全部全部全部!!! 悲しくない。 涙がでない。 泣けない。 どうしようもない。
「夫婦は結局他人だから割り切れるけど、子供は同じ血が流れている訳だから、 どんな状態でも生きていて欲しいって思うんじゃないかな」 彼の友人が、呟いていた。
もしも、私が人工呼吸器をつけないと決めたのならば、 子供達を説得しなければならないと。 子供達に、父親のために最善を尽くすにはどうしたら良いのかと問いかけた。
息子は、私がどうしたいのか、と聞いてきた。 娘は、終始無言のままだった。 息子は、すーっと部屋に入っていったきり出てこない。 娘は、明日一緒に病院へ行くと言って、部屋に戻っていった。
酷だったね。 なんだか頭が痺れてる。 もし父が生きていたら、 何て言うだろう。 怒るかもしれないな。
「子供を不安にさせるな」って・・・・・
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