みかんのつぶつぶ
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2001年04月06日(金)

昨日よりも今日と、状態は悪くなっている。
痛みも治まらない。

新聞を読むのが日課なのだが、ベッドの脇に置いてあるだけで、広げた様子はない。

「マンガも新聞も読む気になれない。腕が利かないから読んでいても面白くない。
一服しに行くのも億劫だ・・・」

ウトウトと、眠っている時間が長くなった。
でもそのほうが、痛みを感じなくて好都合なのだが・・・体が思う様に動けなくなった。

彼は悟るしかないのだ。
自分の状態の悪さは、ただ事ではないと。

「入院するたびに、悪くなっていくな…
こんな状態になるんじゃ、ここに入院した意味が無いじゃないか」

と、彼は静かに嘆いた。

「いまはまだ治療中じゃないの。
抗がん剤も、まだ二日目だから効果はまだでないよ。
でも今日は、頭が痛いって副作用だから、体の中で闘っているんだよ。
効いてきてる証拠だって先生が言ってたよー。
効果が出れば、腫瘍が小さくなって痛みもマヒも消えるんだから。
頑張ろうね」

彼は、私の言葉にコクンと頷いていた。

悲しかった。
自分の言葉が、恨めしかった。

この少し前に、主治医と話し合いをしたのだ。
「人工呼吸器は、つけないで下さい」

彼の状態を見て、これ以上は、もう十分だ。
私と子供のために、もう頑張らなくてもいいよ。

「もう・・・お願いだから、苦しまないでよ」
この想いだけで決断したのだ。
最後の思いやりとして、割り切るしかないだろう。
後悔しても、これでいいのだ。

彼の場合、呼吸ができなくなる時に、意識がはっきりしているために、
非常に苦しい思いをするだろうと予測される。
溺れるのと同じ状態になるのだ。
それは何故かというと・・・腫瘍のできた場所が悪過ぎるのだ。

頚椎の3番と4番の間。
ここは、脳から出てきた各神経の束の出口となっていて、
呼吸を司る神経に作用をしてしまうのだ。
頚椎のもっと上の部分だと、脳に近いため、
意識の神経に作用して、意識が先になくなってから呼吸ができなくなるのだが、
彼の場合は、呼吸が先になってしまう。

主治医は、苦しみの中での処置を徹底するために、私に決断を求めてきたのだった。
夜中の緊急処置に、指示徹底をしておかなければならないから。

人工呼吸器をつけた場合の彼の状態は、
手足は動かず、言葉も話せず、だが意識ははっきりしている…と予測される。

息ができないと苦しんだ結果がこれでは、
あんまりだと思った。
だから、決断をした。

「でも先生。もし私の目の前で苦しんでいたら、人工呼吸器をつけて下さいってお願いしてしまうかもかも知れません」

主治医は、その気持ちはわかりますよ、と言って承諾してくれた。

彼に話してみようかと、本気で考えたと話したら、
その場合は、精神科の医師と私が話し合いをして、
そこで本人に話したほうがいいという結果がでたら、精神科医・主治医・私、そして彼とで話しをする方法があるという。

だが、脳外科患者の場合には、ほとんど告知はしないという。
告知、というよりはむしろ、本人の意思に委ねても、不確かなものになってしまう。
脳疾患ゆえに・・・というのが現実だ。


腫瘍細胞が、しばらく治まってくれないだろうか。
もう少し、頑張らせてあげて欲しい。
抗がん剤の効果を、だしてあげて欲しい。
たとえ先は短くても、
辛い日々を耐えた証しに、快方に向いた体を、味合わせてあげたい


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