【読書記録】田中芳樹「ラインの捕虜」

ストーリー:父が亡くなったことを受け、フランスの資産家である祖父の家を訪ねたコリンヌ。しかし、祖父は頑としてコリンヌが孫であることを認めずさらには悪態までつく始末。しかし、「ライン川のそばにある”双角獣(ツバイホルン)の塔”へ行き、幽閉されているともっぱらうわさの人物が誰なのか見届ける事」を条件には孫と認めるという言葉を信じ、父の汚名返上のためにも、塔へ行く決心をしたコリンヌだが…。

時は1830年のフランス。あのナポレオンをモチーフに、歴史的背景を元にかなり緻密に書かれた作品だなぁとまず感嘆しました。(実際に、参考資料を見ると、ミステリーランド作品では見たことがない量の書籍があげられています)世界史はあまり得意ではなかったので恥ずかしながら私は大変勉強になりました。読者が小さな子供でも、若干固有名詞(七月革命等)に疑問を覚えても時系列と登場人物がしっかりしているので、混乱することもないと思います。むしろそういった少しむずかしめの背景事情があるにもかかわらず、とてもいいテンポで進んでいく物語にひきつけられるのでは。総合的に見て、ページ数もあり長さは決して短いとはいえないのですが、無駄がないためか、全く苦痛は感じませんでした。テンポがいいと書きましたが、どんどん進むという類の意味ではなく、もたつきがなく的確な描写に絞られた文章といったほうが的を射ているかも。実際に、作中では敵襲があり、剣を交えるといった要素もあるのですが、とてもスピーディかつ滑らかで、この方のファンタジックなorヨーロッパ的な作品を探してみたいと心から思いました!
表現については、このくらいにして。実は半ばまで、ミステリー要素を忘れて、冒険物語を読んでいる気分でした。確かに伏線は点在するし、なぞはところどころにあるけれど、それほどまでにコリンヌの仲間と彼女にわくわくし、いいキャラクターだなぁと惚れ惚れ。一見高貴な雰囲気をまとった元海賊に、謎の剣の名手、自称天才作家、そしてカナダとフランスのハーフで、頭の回転がいいコリンヌ。彼らが、目標に達するためにとる手段や、懸念などがどれをとっても頭がよくて、楽しい一冊でした!NO.07■p355/講談社/05/07
2009年07月07日(火)

ワタシイロ / 清崎
エンピツユニオン