♡*ピータロウ♡ |
2003年03月03日(月) |
<2003年3月3日>
今日は楽しいひなまつり。夕方頃に横浜のお兄ちゃんから珍しく電話がかかってきました。自宅にかかってきて、お母さんが電話に出て、私に代わってほしいと言ったので、何か特別な用事なのかなぁと思い、ちょっと緊張しながらもしもしと言いました。「今日はひなまつりだねぇ。」私は、その予期していなかったお兄ちゃんの最初の発言に拍子抜けしました。わざわざそんな事を言いに、久々に電話をかけてきたの?!と思いながら、本当は一体何を言いたいのか、その先にある言葉を静かに聞いていました。「今朝、ひなまつりの朝にね、ピータロウが死んだよ。」その一言の数秒先に、「そうなんだぁ…。」と、私は冷静に対応したようで、頭の中は真っ白になり、呆然と立ち尽くしたまま、受話器を必死に離さずに握っていました。
お兄ちゃんがなぜ最初に、お母さんにではなく私にその真実を伝えようとしたのかは色々考えられます。お母さんはすぐにパニックになって動じる性格なので、お兄ちゃんはピータロウの死を静かに伝えたかったのでしょう。そこから、お兄ちゃんのショックもとても大きかったという事がうかがえました。しかし、最も重大な理由はきっと、ピータロウの飼い主は私だからだったと思います。
私がお兄ちゃんからピータロウの死を知らされた瞬間、私はとんでもない罪を犯してしまったような罪悪感にひどく駆られました。ピータロウは横浜のお兄ちゃんの家で死を迎えたわけですが、本来ならば、横浜ではなく私の自宅で見届けられるはずだったのです。なぜピータロウが横浜のお兄ちゃんの家に預けられなければならなかったのか、その理由は一つ…私の病気のせいなのです。
ピータロウは、私が高校2年生の夏休みの時に飼い、ヒナから育てた手乗りインコです。以前に飼っていた白文鳥のピーコが亡くなって以来、寂しくなって再び飼い始めたわけですが、ピータロウはインコだけあって、私の声や言葉を真似したり、一緒になってゴニョゴニョとおしゃべりをしていました。毎晩カゴから出して私のお部屋に連れていっては、学校の教科書やノートやプリントをかじったり、大事な書類の上にフンをしたり、机の上から色々な物を落としたりと、いたずらばかりしていました。
そんなまるで姉弟のように仲良しだったピータロウとの最初のお別れは、私が入院をした時の事でした。私は丸一年間入院をしていたために、その間はずっとピータロウと一緒に遊ぶ事は不可能でした。その上、それ以来ずっとピータロウはカゴから出してもらえなくなり、手乗りインコだったピータロウは、ただのカゴの鳥になってしまいました。私の声を聞く事がなくなったせいで、以前は話す事ができていた色々な言葉も全て忘れてしまい、最後は一言「ピータロウ」としかおしゃべりできなくなってしまいました。
私が入院してちょうど一年後、やっと退院の目処が立ってきて、ようやくピータロウとまた一緒に暮らせると喜んでいた頃に、その話を聞いていた主治医がいきなり、「ペットなんてとんでもない!!」と言い出したのです。動物、特に鳥は病気を脅かす細菌やカビを持っているので、野生の鳩にも近寄ったらダメだと注意されたのです。それを聞いた両親は、それは困った困ったと慌てて、ピータロウをどうしようかと悩み、結局ピータロウは横浜に住んでいるお兄ちゃんの家に預けられる事になったのです。
ピータロウが横浜へ連れて行かれる前日の夜に、お父さんはピータロウをキャリーバッグに入れて病院まで持って来てくれました。「明日ピータロウをお兄ちゃんの家に持って行くからね。」と、最後にピータロウの姿を私に見せに来てくれたのです。私はその時、そのキャリーバッグを持って逃走しました。「横浜になんて連れて行かせるもんか!!」そのように思いながら、泣きながらピータロウと一緒に隠れていましたが、結局最後は見つかって、主治医に説得されました。
退院してせっかく家に戻って来れたのに、ピータロウが以前いた鳥カゴの中は空っぽでした。「ここにいなくても、お兄ちゃんの家で元気に暮らしていると思えば、寂しくないでしょ??」両親はそう言って私を励ましてくれました。とても辛かったけど、またお兄ちゃんの家に遊びに行ったらいつでも会える…そして、私の病気が良くなって、免疫抑制剤を飲まなくても良くなったら、再び必ずこの家にピータロウを連れ戻すんだって自分に言い聞かせて、ピータロウのいない寂しさをずっとこらえてきました。
去年の春休みにお兄ちゃんの家を訪れ、ピータロウに再会しました。私の事はもう忘れているようだったけれど、元気そうだったのでひとまず安心しました。それにしても都会は、動物が住むには環境が悪過ぎる…私の家だったら、毎日外から鳥の声がして、ピータロウはいつもその鳥たちと仲良くおしゃべりをしていました。しかしお兄ちゃんの家の中では、聞こえる音はただの車の騒音だけでした。近所は道路や住宅密集地だったので、窓の外に鳥カゴを出してあげる事は一切なく、お兄ちゃんは昼間お仕事で留守をするので、ピータロウは日光もろくに入らない薄暗い窓辺で一匹、毎日どのように過ごしていたのだろうか…。
お兄ちゃんが言うには、ピータロウは今朝からカゴの下でぶるぶる震えながらうずくまっていたようです。昨日はお兄ちゃんもずっと家にいたらしく、久々に敷き紙を変えてあげたようで、昨夜は変えたばかりの新しい新聞紙の上で、バタバタ暴れていたようです。ここ3日、エサもあまり食べなくなり、声を出す事もあまりなかったようです。そして今朝、最後の一羽ばたきをして、息を引き取ったようです。私はお兄ちゃんの描写をただ聞く事だけしかできず、ピータロウを最期まで自ら見取ってあげられなかった…その罪悪感で押しつぶされそうになりました。私が病気にならなかったら…私の病気のせいでピータロウは犠牲になってしまった…私がピータロウを不幸に陥れてしまった…もう一度この手でピータロウを温めてあげたかった…
春、特に3月は季節の変わり目で、暖かくなったと思えば急にまた寒くなったりと、気候も不安定です。私にとって春は、あまり良い思い出はありません。昨年の3月にはおじいちゃんが亡くなりました。以前に飼っていた白文鳥は4月に亡くなりました。その前に飼っていたインコは、3月のお父さんのバースデーに亡くなりました。しかし、春は終わりでもあるけれど、始まりでもあります。春と言えば桜…私の大好きな桜色の季節が今年もまた訪れようとしています。毎年、大好きな桜を見ながら、私はどのように成長していくのだろう…。
<2003年3月7日>
今日の午後2時過ぎに宅急便が届きました。その小さな箱には「手作りクッキー」と書かれており、壊れ物注意という表示のため、宅配人はとても厳重に届けてくれました。それはお兄ちゃんからのもので、当然私は中味が手作りクッキーではなく、私の親愛なるピータロウであるという事を知っていました。
私はまず、お帰り♪と言いました。そして、喜び以上に恐怖心に駆られながら、何重にも丁寧にラッピングされたその箱を少しずつ開けていきました。まず目に入ったものは、懐かしいピータロウのおもちゃでした。ピータロウの相棒であった小鳥のお人形さんと、私が高校時代にバッグにぶら下げていたプラスティックのカラフルなチェーン。これはピータロウのお気に入りの遊び道具でした。それらはお墓の上に置いてあげる事にしました。
最後に、ピータロウを包んでいる綿が見えてきました。その時、チリンと音がしたので、何だろうと思いながら綿を少しずつ取り除いていくと、鳥の形をした鈴が2つ出てきました。一つは買ったままの袋に包まれていて、もう一つは袋から出されていて、ピータロウと一緒に綿の中にうずもれていました。袋に入った方の鈴には、「みほに。ピーちゃんとおそろい!」と書かれてありました。すると、もう一つの鈴は、ピータロウと一緒に埋葬するためのもの…?!これは、お兄ちゃんの私への思いやりでした。例えピータロウとはもう二度と会えなくても、この鈴が私とピータロウをいつまでもつなぎとめていてくれるから…だから寂しくない…そして、いつまでもピータロウの事を忘れる事はないよ…。この鈴はお兄ちゃんがくれた、ピータロウと私の一生の宝物だよ。
綿を全て取り除き、中から懐かしいピータロウの姿が現れてきました。ピータロウがこの家に戻ってこれたのは、約1年半ぶりかなぁ…。生きて帰ってきてほしかった…でもピータロウは、離れている間、寂しくて辛くて苦しい思いをしながらずっと、ここへ再び帰ってくる事を待ち望んでいたのかもしれない。そう思うと、今日やっとここに帰ってこれたんだね♪これからはずっと、ピータロウの近くにいるからね。と、言ってあげたい気持ちでいっぱいになりました。
ピータロウの姿は昔とちっとも変わっていませんでした。私がこの家でピータロウと一緒に過ごした思い出は、約2年も前の事ではあるけれど、その名残は今でもくっきりと私の記憶の中に留まっています。家中のピータロウがいたずらをした形跡も、今でも生々しく残っています。たった約5年半の寿命は短すぎでした。その内、飼い主の私はたったの3年間しか一緒に過ごす事ができなかったなんて…。本当に悔やみ切れません。若くして息を引き取ったピータロウの姿は、毛並みもまだ十分に綺麗で、とても死んでいるようには思えませんでした。
インコは自殺をするとも言われています。それほど繊細な心を持った動物なのです。こんな小さな体で、さまざまな逆境や精神的なストレスと闘いながら生きてきたんだなぁと思うと、本当に胸が痛くなります。動物には罪はないのに、人間の都合で一生涯の運命を左右させられて…。そう思うのはきっと、私がピータロウに対して満足のいくほどの愛情を注いであげられなかった後悔の気持ちが、ひたすら自分を責め続けているからだと思います。おしゃべりインコは長生きをするんだよと、小鳥屋さんの店員さんに言われた事を思い出すと、ピータロウはもっともっと長生きできたはずなのにと悔しさと悲しみでいっぱいになるのです。
今日の天気は悲しくて冷たい雨でした。まだ生きているようなとっても綺麗なピータロウの体を、冷たくて暗い土の中に埋めてしまうなんて…。それでも早く土に返してあげなければ、いつまで経っても天国へ羽ばたいていけないような気がしたので、雨の当たらない縁側の隅に埋めてあげました。ピータロウの大好きだった庭のお花と、大好物だった白菜と、私とおそろいの鈴と、お兄ちゃんからのメッセージも一緒に埋めてあげました。その上には仲良しだった相棒のお人形さんを置いてあげて…。ピータロウのお墓が完成だぁ(*^_^*)♪ これからはずっとずっと一緒だからね。
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