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2003年04月24日(木) 『私のウォルマート商法』

 ここ数日ちょっとずつ読んでいた本を読了。ウォルマートの創業者であるサム・ウォルトンが、自らの哲学やウォルマートの成り立ちや成長について語った本。ウォルマートについて書かれた本は結構たくさん出版されていて、日本でも西友と組んで段階的な進出を図るというニュースが出た頃から、再び類書が増え始めている。それはそれで興味深いことだし何冊かは実際に読んでもみたけれど、それらにはどちらかというと分析的なものが多かった。ビジネス書であるのだから当然であると言えば当然なのだけれど、SCMであれ、情報システムであれ、物流体制であれ、利益分配制度であれ、そのような特徴の説明にページが割かれていたのだ。
 
 本書は創業者であるサム・ウォルトンの手による本であるところがそれらの類書とは異なり、また物流や情報システム等々の細部よりはウォルマートに息づく原理原則、平たく言うのであれば社風の核となる精神について語られている点が興味深いと言えば興味深い。もちろん、物流や利益配分制度についても語られてはいるのだけれど、それらの仕組みよりもなぜその仕組みを導入するに至ったか、その仕組みの背後にはどのような考えが息づいていたのかという部分について重きが置かれているのだ。

 それなので、レポートと言うよりは経営者が従業員に向かって語って聞かせる肉声に近い感覚があった。
 ウォルマートがわずか40年程で世界でNo.1の小売業となり現在も成長し続けている理由として、「顧客のため」ということを愚直なまでに徹底し続けていることが挙げられる。ともすれば奇策に頼りたくなったり、自らの規模に過信をしそうなものなのだが、ウォルマートにはそのようなことはなく、商売の王道をただひたすら追求している。コスト徹底的に削減し、利益を消費者に還元する。もちろん、実際にはある程度の利益を確保しているし、ボランティアでもないのであくまでも企業としてでの話ではあるが、それでも顧客はウォルマートがあることで年間何百ドルも節約することができるだろうし、それも一種の貢献であると言うことはできる。

 それにしても、何事でも継続して行うことと、徹底してそれを行うことが重要であることは疑いなく、それを実行し続けることができていることが大きな強みであると再認識させられる。まずはトップの明確のビジョンがあって、それを実行するためにチーム全体が当たり前のことを当たり前にやり抜くということ。書くのは簡単なこのことは実際に行うのは非常に難しいことで、たとえば価格を安くすると言っても適正な利益を確保しながらどこよりも安くするためには、商品が店頭に並ぶ遙か以前から(原産国の設定やベンダーとの情報共有、ローコストで効率的な物流システム等々)の仕組み作りが重要になってくる。それを他社がとうてい及ばないレベルで行っているのだから感服してしまう。
 結局は何を行いたいのかという大きなポイントが一つあって、後はそれを実現するためにはどうするべきなのかと線を逆に引いていく他はないのだ。ウォルマートの場合には、その線が明確な実線でありかつ正確に引かれているということなのだろうと思う。

 実際にウォルマートの店舗に入ったこともあるけれど、はじめて入ったときには同じディスカウントストアのターゲットの店舗の方が魅力的に見えた。ターゲットはファッショナブルなディスカウントストアと呼ばれているだけあり、たとえばプライベートブランドの文房具などをフィリップ・スタルクがデザインしていたりと商品的に魅力を感じたのだ。それに対してウォルマートは洗練されていない野暮ったい田舎の安売り店というイメージだった。
 けれども、別のショッピングセンターの中にある新店を見たときには、天井が計り知れないほど高く、天井の窓から採光もされ、広い通路にきれいに並ぶ商品を目の当たりにし、ウォルマートで唯一変わらないことは変化し続けるということだという意味を売り場レベルでも実感させられた(サム・ウォルトンは小売業の経営者の中で、もっとも多くストア・コンパリゾンをしていたとも伝えられている。数多くの店を見学し、他店のよい点を参考にして自店に取り入れていく。だからこそ、旧店と新店とでは大きく異なって見えたのだろう)。
 ただ、古いタイプの店でも、ウォルマートがその地域の住人にとって暮らしを守っているのだということはよくわかった。ウォルマートは最初、人口五万人に満たないような小さな田舎町に出店を続けていった。だからこそライバルたちが脅威と感じないうちに規模を拡大することができたのだとも言われている。そしてそのような田舎町にウォルマートがあるということは、買い物が一カ所で済むということであり、それまで中都市や大都市までわざわざ出掛けていかなければならなかったものが地元で(しかも出掛けていくよりもはるかに安価で)手に入るということだし、それは(結果的に)自由な時間とお金を顧客に与えることでもあったのだ。

 結局のところ世界で一番大きな小売業が大衆の生活に密着する店舗を経営している企業なのだということには納得させられる。高級ブランドを扱う企業が世界で一番の小売業であるということは、やっぱり現実的ではないし、一般大衆であるところの庶民がかなりの頻度で利用する店舗が世界一になるのだというのは当然のことなのかもしれない。

 日本に進出してくるウォルマートが成功するのかどうかは別にして(小売業はドメスティックなものだということも事実ではあるし)、それでもそれによる再編や大波に関しては、非常に楽しみだしどうなることやらとも思う。

 印象に残った部分をいくつか抜粋。


 過去数年間、私が本当に気にかかっているのは株価ではない。いつか、わが社がお客を大切にすることを忘れたり、幹部が従業員のことを気にかけなくなる日が来るのではないか、ということである。また、成長するにつれて、チームワークの精神が失われたり、わが社独特の家族主義が働く人々にとって実感を伴わない、空疎なものになるかもしれない、という心配もある。こうした試練のほうが、ウォルマートは方向性を間違っている、と指摘する評論家の言葉よりはるかに重大である。(190〜191ページ)


 さらにたいていの会社には、「歌うトラック・ドライバーズ」というゴスペル・グループも、「ジミー・ウォーカーと会計士たち」という管理職のコーラス・グループもないのだ。
 真剣に働いているからといって、いつもしかめっ面をしたり、難しい顔をしている必要はないのだ。(……)だが、どんな仕事をする場合でも、私たちは楽しくやりたいと考えている。それは、「口笛を吹きながら働く」式の哲学であるが、この精神でやれば仕事が楽しいだけでなく、よりよい仕事ができる。(262ページ)


 小売業の成功の秘訣は、「お客が望むものを提供する」ことである。実際、もしお客の立場になったら、誰もが最善のものを望むだろう。質のよい商品、豊富な品揃え、可能な限りの低価格、満足の保証、感じがよく知識の豊富な店員の応対、お客の都合に合わせた営業時間、無料駐車場、そして、楽しいショッピング体験等々。もし店で期待以上の体験をすれば、その店に好感を抱き、店が不便だったり、店員の態度が不愉快だったりすれば、その店に不快感を抱くだろう。(284ページ)


 長年いわれてきたように、ウォルマートの成長と店舗管理にとって、情報システムと物流システムは本当に重要だったのである。だが、たとえ読者が、わが社のビルから通信衛星のアンテナが何本も突き出ているのを見、内部のコンピュータの話を聞き、あるいはレーザー誘導式物流センターの模様をビデオで見たとしても、けっして騙されてはならない。こうしたシステムも、有能な管理者や店長たち、献身的な店員やトラック運転手がいなければ、一セントの価値もないのだ。(344〜345ページ)


 現在、ウォルマートでは三人以上の行列待ちができるとライン・バスターと呼ばれるハンディスキャナーを持った店員が現れ、レジ待ち顧客のバーコードを読み始める。顧客は読み込まれたデータのインプットされたカードをレジに出せば瞬時に精算することができるのだ。(406ページ)


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 お知らせ

 ウォルマートの売上高は約29兆円です(想像できない金額ですよねえ)。


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