Sun Set Days
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2003年02月04日(火) 『猟奇的な彼女』+『ボーン・アイデンティティ』+『ハゴロモ』

 久しぶりの更新。みなさんお元気ですか? 僕は職場のインフルエンザブームにものらず、それなりに忙しく日々元気に働いていたというわけでした(最近、いきなり話を過去形で終わらせることが流行っていて、ちょっとそういうのって面白いのでした?)。


 閑話休題。


 人によってツボにはまる(あるいは心の琴線に触れる)音楽が異なるように、映画の好みも千差万別だ。
 個人的には笑わせて泣かせるような物語、あるいは笑わせた後で気持ちのどこかをしんとさせるような物語がストライクゾーンの(そういうものがあるとするのなら)ど真ん中だったりする。そしてど真ん中というのは意外と少なくて、たとえば昨年に観た『tokyo.sora』は個人的にはとても印象的な好きな作品だけれど、その淡々としたトーンや透明感のようなものの中には「笑い」の部分はそう多くはなかった。そういう意味ではいま思い返してみると、ストライクゾーンの渋いコーナーをついてきたというようなものだったかもしれない。

 そして、今日は久しぶりに、ストライクゾーンど真ん中の直球で、しかも速球、手も足もバットも出ないような映画を観てきた。
 そう書くとなんだかひどく大げさだけれど、あんまりにも面白かったから、映画館が明るくなるまで席を立てなかった。

『猟奇的な彼女』を観てきた。ロングのストレートヘアの美人が、ちょっと(いやかなり?)情けなさそうな男の首を絞めている写真でおなじみの、韓国映画だ。

 パンフレットによると、『猟奇的な彼女』はラブストーリー映画として韓国歴代1位を記録しているとのことで、一見タイトルとラブストーリーというところにギャップを感じてしまう。(猟奇的なのにラブストーリー?)というように。けれども、ここで使われている猟奇的という言葉は、猟奇殺人などの猟奇ではなく、「特異、タフ、面白い、突拍子もない」というような意味で用いられているのだ。つまり、猟奇的な彼女=タフで面白くて、突拍子もない(行動をとる)彼女ということになる。

 これはもう、すごく面白かった。あまり人に何かを勧めるのは好きじゃないと書きながらいままでに様々なものを勧めてきたText Sun Set(ちょっと「思いっきりテレビ」っぽいよねと巷で評判)での、2003年最初のフィーチャーはこの映画。かなり笑ったし、泣きはしなかったけれど終盤では感動させられた。ああ、いい映画だったと、掛け値なしに思うことができた。観終わった後でなんだかとても嬉しくなってしまった。
 そういう映画って、そうそうないから出逢えたときにはやっぱり嬉しくなる。

 ストーリーは、平凡な大学生のキョヌが、「ある晩地下鉄でベロベロに酔っ払った超美人な”彼女”と出逢った」ところからはじまる。ひょんなことから彼女を介抱することになったキョヌはそのまま不思議な縁で彼女との距離を近づけていく。ただし、彼女はかなりワガママでストレートな物言いをし(「殺されたいか」なんていう台詞は当たり前)、またすぐに手が出るし(映画の中で、キョヌは何度彼女に殴られ、ビンタされていることだろう?)、さらには酒癖が悪いといった、かなり奔放な女性。キョヌは彼女に振り回されながらも、最初は美人だけどちょっと勘弁と思っていたのに、一緒に過す時間が増えていくたびに逆にどんどん惹かれていく。

 観客も同じように、最初は酔っ払って白目を向いている彼女に、どんどん惹かれていくのだ。
 彼女はナイーブで情けなくてけれども優しいキョヌが気がついているように、心の傷を抱えている。そのギャップが、彼女の猟奇的な行動に違った意味を重ねていくのだ。途中のキョヌのモノローグに「明るい姿を見せようとする彼女が僕は好きです。」というものがあるけれど、彼女には無理してそうしている部分があり、ただそれがキョヌの存在によって自然にそうしていけることとのバランスが少しずつ変化していく様が印象的だ。そして、キョヌ自身の変化(成長)も大きな見所と言えるだろう。

 また、最初からここまでやるかというか、何でもありだよというようなコテコテのネタが連発で、それがまた劇場内での笑いをかなり誘っていた。僕ももちろん笑ったし、映画館でたくさんの人が笑っているのをみたのはなんだか久しぶりの気がした。ギャグやネタは本当にお約束というかある意味ストレートなものなのだけれど、けれどもそれがまた素直に笑えるのだ。おかしいくらいに。

 韓国で大ヒットしたのも納得。ちょっと映画でも観ようかなと思っている人で、近くでこの作品を上映している人は、ぜひ観に行くことをお勧めします!!


『ボーン・アイデンティティ』は、ノーコメントです……。ヒロインは『ララ・ローラ・ラン』のあの走っている女の人でしたけど。


 映画の行き帰りの電車内などでよしもとばななの『ハゴロモ』を読み終える。新潮社。不倫の果てに故郷の小さな町に帰ってきた私が癒されていくまでのある種のおとぎ話。川が常に側にある小さな町について説明されている導入部分が、よかった。物語は、よしもとばななの作品に共通する少しだけ変わった人たちや、ちょっとだけ変わった能力が出てくるもの。穏やかで緩やかで、随所に印象的な模様が編みこまれた肌触りのよい小さな織物といった感じ。私はやっぱり半分だけ当事者で、半分だけ傍観者のようなスタンスでいる。世間的には枠から外れているかもしれなくても、精神的に自立した人たちが常に主人公の近くにいることは、よしもとばななの小説に共通するところであるし、だからこそその関係性によって一歩前進(この作品にある言葉を用いるのなら「癒し」)になるのだろうなと思う。


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『猟奇的な彼女』を観るために東海道線に乗って新橋まで行って、そこから日比谷シャンテまで歩いていった。
 天気はあまりよくはなく、結構寒い。
 濃い茶色の上着にジーンズ、それからグレーのマフラーに定番の斜めかけカバンと同じデザインのウエストバックという身軽な服装で、マフラーの顎を埋めながら、どんどん線路沿いを歩く(この間同じ格好で職場にちょっと顔を出したら、パートのおばさんに「どこの大学生かと思った」と言われちょっとへこんでいる28歳です)。
 最近は高架下(ガード下?)に飲み屋やカフェが増えていて、結構たくさん見かける。そのほとんどは時間のせいか閉まっていて、夜になるとまた賑やかに明るく照らされるのだろうなと思う。いつの間にかもう2月で、真冬の盛りという雰囲気だ。新橋から有楽町に向かう辺りにはやはりたくさんのサラリーマンたちがいて、その中に混じってリクルートスーツに紺色のコートといった感じの人たちを見かけた。
 もうそういう時期なんだよなと思う。
 僕は昨年まで2シーズン採用を担当していて200人の採用計画を立てたり、延べ千人以上の面接をしたりしていたので、就職活動というものについてちょっと感慨深いものを感じたりしているのだ。これはどんな会社の人でも、採用に携わったことのある人なら思うことだと思うのだけれど、他人の人生の岐路に微々たるものかもしれなくても触れることができ、またたくさんの人の人生を短い時間ではあるけれど聞くことのできる仕事でもあるので面白いといえばやっぱりとても面白い。
 活動の早期化によってピークも年々早まっているし、現大学3年生にとっては試験から就職活動と大変な時期ではあると思うけれど、ぜひ頑張ってほしいなと思ってみたり。


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 お知らせ

『猟奇的な彼女』は、8日から日比谷シャンテ以外でも上映するみたいですよ!


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