Sun Set Days
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2002年11月07日(木) 息子には着ぐるみ+『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』

 月曜日の夜にカレーを作って、毎日夜に温め直して今日まで食べていたのだけれど(1人暮らしなので1日じゃとても食べきれないのだ)、やっぱり2日目、3日目とかはおいしくて嬉しくなる。
 将来子供ができたら(そしてその子供が男の子だったら)、キレンジャーの着ぐるみを買ってカレーの日には必ずそれを着させて、カレーを食べるときにはそのコスチュームを着なければいけないと信じ込ませよう。小さい男の子がキレンジャーの着ぐるみを着てカレーを食べているなんて、なんだか幸福そうな気がする。
 他にも、部屋のクローゼットにはいろんなコスチュームを用意して、たとえばおやつにどら焼が出るときには青く丸いあのコスチュームを着させるし、ちくわを食べるときには白いかぶり物のようなコスチューム(毛が3本あるやつ)を着させよう。

 ……あれ? ちくわは獅子丸だった?


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『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』読了。山本藤光著。プレジデント社。

 サブタイトルは、「日本ロシュのSSTプロジェクト」。日本ロシュは外資系の製薬会社で、この本は日本ロシュで実際に行われた営業改革の過程を本にまとめたものということになる。著者もそのプロジェクトのフォローを行っていた人物で、日本ロシュの社員(いまも在籍しているようだ)。外部のフリーライターやどこかの教授などが書いたわけではなく、ある企業の変革の過程を、その企業の社員が自らまとめるというのは随分と生々しいと思ったし、だからこそ手に取った本だった。

 正直な話日本ロシュのことは名前くらいしか知らなかったし、異業界だし、SSTプロジェクトって何なのだろう? くらいにしか思っていなかったのだけれど、この本は面白かった。

 大まかな流れは以下のような感じ。

 日本ロシュも他の製薬会社と同様に多数のMRを抱えていたが、2-6-2の法則で優秀MRと平均的なMRとぶらさがりMRとに分かれていた。そこで、平均的なMRのレベル向上によって企業全体のMRのレベルが向上し、ひいては実績も向上するはずだと、SSTプロジェクトという社長直轄のチームを発足させることとなった。これは「スーパー・スキル・トランスファー」の略語なのだけれど、塾の講師のように、短期間で成績を上げるために編成されたチームだった。

 そのチームのメンバーとして、まず全国各地からトップ営業マンたち24人が引き抜かれた。もちろん、現場の反対はあったが(普通トップ営業マンが抜かれるということは、それだけ支店の成績が落ちることを意味しているわけだし)、それでもトップの強い意志のもと、精鋭たちが集められたことになる。そして、このSSTプロジェクトが風変わりなのは、彼らが行うのは、基本的には3人一組になって3ヶ月間、ある支店のある課にいる平均的MRたちと同行営業を続けていくことなのだ。

 MRが病院や卸を回る一日の営業活動を、通常であれば課長が一緒についていくことを同行と呼び、その同行の質と頻度がO-J-Tとなるのだが、実際には時間の制約などもあり、満足には行われていないことが多かった。それによって、MRたちは、当たり前のことをわからないままの状態で留まるケースもあり、成長したいという漠然とした志向はあっても、その具体的な方法が教えられない、わからない状態にあったのだ。

 もちろん、マニュアルは完備していた。本社から、月に何度かビデオでの新薬や業界動向についての情報提供などもあった。けれども、それらの活かし方もわからず、結果としてMRのレベルは長い間足踏み状態、たとえば病院に行っても毎回同じような会話しかできずに出直しとなるようなことが少なくなかった。

 それを立て直すためにプロジェクトメンバーが選択した方法が、マンツーマンで継続して同行することだったのだ。その中で、SSTチームのメンバーは担当MRと面談を繰り返し、どのような目標を立てるのか、そのためにはどうすればいいのかを実際の同行活動を通じて確認していく。それはまるで親方から弟子への知識の伝達のように、one to oneなものだ。そうされることによって、普通のMRたちはSSTメンバーの話術や知識、医者へのアプローチの方法等を学んでいく。さらに、メンバーが自分たちの向上のために来てくれており、また身を粉にして取り組んでくれていることに信頼感を深め、プライベートな悩みまでを相談するようになってくる。そうなると、モチベーションが、やる気が違ってくる。
 平均的なMR(場合によってはぶらさがりMR)が変わってくる。

 通常、支店には幾つかの課があり、それぞれに課長がいて、その下に8人程度のMRがいる。SSTメンバーが担当するのは、そのある課の3人のMRだから、多くの者はメンバーに直接教えてもらえるわけではない。けれども、メンバーが派遣された課では、そのメンバーの会社をよくしようという熱意のようなものが伝染するのか、また負けられないと奮起するためか、いい雰囲気が生まれてくる。新薬についての勉強会や、営業のロールプレイングなどが、積極的に行われるようになってくる。そして、比較的早い段階で、その課の、そして支店の成績が向上してくるのだ。

 その過程が詳しく書かれているのだけれど、その独特のアプローチの仕方が興味深かった。集合教育やマニュアルではなく、いわゆるスーパーなメンバーに直接ノウハウを叩き込まれること、考えさせられること、触発されることの意味が大きなものだということが実感されたからだ。そして、そういう熱い雰囲気のようなもの、なぜなぜと突き詰めることが当たり前になってくる環境が産み出されていくことが、ひどく魅力的なことのように思えた。
 その同行営業によっていわゆる勘とか技とか、SSTメンバーが持っていた言語化・形態化できない暗黙知が共有化されていくことが、最終的には組織全体を活性化させていったということには納得させられる。

 ナレッジ・マネジメントというのはここ数年の流行で、ビジネス書とかではよく聞くけれど、実際にそれを導入して成功したという事例を知ることはまだまだ不足しているように思う。理論はたくさん見聞きしても、ケーススタディはそうでもないような気がする。それだけに、このように実際に行ったというケーススタディに触れると、よりリアルに理解することができるために興味深く読むことができた。

 帯にはナレッジ・マネジメントの権威である野中郁老次郎教授の言葉でこう書いてある。


 SSTは、「暗黙知」にフォーカスを当てた世界ではじめてのナレッジ・マネジメントである。


 読んでみたら、なるほど、と思える。
 もちろん、このやり方は、その企業のスタイルにカスタマイズして自ら創り上げたものだから、そこに独自性があるわけで、すべてをたとえば他の会社に導入することはできないかもしれない。けれどもその方法の中にある考え方自体は、アレンジしながら自社にも取り入れていくことができる部分はあると思う。
 まずは手近なところから。

 いくつか引用。


 営業課長が熱心に指導したケースと、前記の理由で指導がおろそかになるケースとでは、新人MRの成長度が違う。この理由は「指導の連続性」にある。新人MRの現在のレベルを熟知し、一段高いハードルを用意する。次の日はまたハードルを上げる。部下育成には「指導の連続性」が不可欠な要件である。連続性とは毎日という意味ではない。育成プランに基づいた継続的な指導という意味である。(72ページ)


 SSTは、朝から晩までMRと同行を継続する。毎朝八時半には卸か病院にいる。オフィスへ戻るのは、早い時間でも午後八時。これを毎日やり遂げる。顧客から顧客への移動の車中でも、ロールプレイが行われる。さっき訪問した顧客についての意見交換をする。遅い昼ご飯を食べながら、将来の夢を語り合う。MRのモチベーションを高め、本気でレベルアップに取り組む。(96ページ)


 SM(セクション・ミーティング)の場でMRの成功例を集めて(共同化:S)発表させる(表出化:E)。MRは、その中から自分の顧客に使えるものを書き留める(結合化:C)。それを顧客で実践してみる(内面化:I)。実践した結果を、次回のSMで報告する。(140ページ)


「……をする」「……へ行く」は、いずれも「目的」に到達することを目指した動詞なのである。行動の背景には必ず目的がある。目的につながらない動詞は、存在しないはずである。
 ところが、SSTメンバーからは、MRの訪問目的が不明確な活動が目立つとの報告が多い。(149ページ)


 毎日の訪問目的が明確になると、毎日に起伏が生まれる。月末にのみ一喜一憂していたのが、毎日になるのである。悔しい一日を終えたら、それを翌日のバネにする。楽しい一日だったら、さらに翌日へのはずみにする。一日が充実するということは、翌日も充実するということなのだ。(206-207ページ)


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 お知らせ

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