Sun Set Days
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だめだ……!! 彫れないっ。どうしても彫ることができない……。
薄暗いアトリエの中央で、初老に差し掛かった彫刻家が苦悶の表情を浮かべていた。彼の周りには彫りかけては挫折したたくさんの雪花石膏が散らばり、髭をそる余裕もないのか、無精髭が影になり頬がうっすらとこけたように見える。 もうずっと、挑戦し続けているのだ。それでも彼の手は途中で止まり、その題材の難しさ、奥の深さの前に断念させられる。まるで、底なしの崖の前に立ってそれでも底を眺めようと目を凝らしているようなものだった。
このモチーフはっ、このテーマはワシには難しすぎるのか……!!
彫刻家は心の中でそう叫び、さらに材料を無駄にする。彼は最近ベテランに与えられると言われている権威ある賞を受賞したばかりだった。これまでにいくつかの大作もものにしてきた。評論家たちの間での評価も高い。 その彼が、自らの実力に限界を感じ、挑み続けては断念している題材があるのだ。
芸術とはまさに深遠。果てのない宇宙だということができるだろう。
……え? その彫刻家の選んだモチーフは何かって?
じゃあちょっと、材料の近くに置いてあるラフデッサンに書かれているタイトルをズームアップしてみよう。
……
……
タイトル
……
……
「スネ夫」
……
……
彫刻家の苦悩は今日も続く。
髪がっ、髪が彫れないのだ……3次元の常識ではスネ夫の髪はっ……!!
……ええ、勝手に悩んでいてください。
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お知らせ
【Fragments】14と15、連休中に同時にアップ予定です。
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