夜更けの森の中を猫が歩いていた。 数多の星がきらめく夜空に居心地悪そうに満月がひとつ浮かんでいる。 猫は森林の中央に位置する湖に向かっていた。 湿った枯葉の香りを放つ土を華奢な四肢で踏みしめながら、ひたすらそこを目指した。 時折彼女の気をそらすかのように、小さな虫が鼻をかすめる。 普段の彼女なら生まれつき兼ね備えた俊敏さを活かして追いかける所だったが、今はそんな気分じゃなかった。 足の裏がひんやりと冷たい。体のどこかが濡れるということは、雨が降ると世界がすっかり乾ききるまで眠り続けるほどに不快なことなのに、彼女は根気よく歩きつづけた。 やがて、黒々とした樹木が突如ひらけて、ぽっかりと湖が姿を現した。 彼女はようやく立ち止まった。 ひげを揺らす程度に吹く風で足元には細波が寄せてくる。 水面には夜空と同じように星と月が浮かぶ。 ただ一つ空と違ったのは、彼女の姿もそこに映し出されていたということ。 たくさんの星とひとつだけの月と一匹の猫。 彼女は月が微笑んだことを確認すると水際に座り込み、太陽が星の姿を消すまでそこで眠った。
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