解放区

2014年07月25日(金) コウノドリの5巻が配信されたわけさ。

コウノドリの5巻が今日kindleに配信された。4巻までそろえていたてめえは、密かに前から予約していたのだ。そんなわけで、発売日の今日の朝、てめえが起きたらすでにkindleに入ってた。まあ便利な時代になったものだ。

仕事が終わっていろいろやることを終えてから早速読んでみた。このマンガは結構リアリティがあるだけではなく、てめえが産婦人科研修をしていたときのこともリアルに思い出す。

てめえは2ヶ月だけ、なんちゃって産婦人科医をした。「何も知らない研修医」の身分を利用して色々勉強させてもらった。

産科領域に関しては、予測できないことも多くてほぼ毎日病院に泊まり込んだ。てめえのいた病院の方針は「できるだけ実践させる」というものだったので、数例正常出産を見た後は、ほぼ自分が赤ちゃんをとり上げた。

分娩介助をするためには、陣痛が始まったところからずっと妊婦に付き添わなくてはならない。もちろんその前にある程度の人間関係を作っておかないと、妊婦の側から分娩介助に入らせてもらえない。そりゃあそうで、自分の大切な子供は信頼できる人じゃないととり上げてほしくないのだ。てめえは幸いなことに、一例も拒否されなかった。

そんなわけで、正常分娩で約20人の赤ちゃんをこの手でとり上げた。この経験があるので、今でも多分、例えば道端で緊急の正常分娩に出会っても赤ちゃんをとり上げることは出来ると思う。

死産に出会ったことは以前に書いた。産婦人科研修では、それ以外にもう一人印象的な妊婦さんがいた。

奥さんが外国の人だった。ご主人は日本人で、どうやって出会ったのだろうかは全く知らない。妊婦検診の時から良く知っていた方だった。

奥さんは黒人で20代だったと思う。夫は40代の日本人だった。妊婦検診は順調だった。とうとう予定日近くになって、陣痛が起きて夫婦は病院に来院し、入院となった。

奥さんは初産だったので、なかなか子宮口が開かなかった。定期的にやってくる陣痛に、彼女は呻いた。ご主人はずっと付き添っておられたが、途中でリタイア。年のため? かどうか知らんが、最もしんどい妻を横目にさっさとリタイアってなんだろうか。人間はしんどいときに本領を発揮するとは良く言ったものだと思う。

まあ、医療側から見れば正直夫とはそんなものだ。ていうか男ってそんなもので、覚悟が出来ない子供なのだ。

そんなわけで、リタイアした夫の代わりに業務上てめえがその女性に付き添い、ずっと腰をさすり続けた。

陣痛が来るたびに、彼女は躊躇わず痛みに顔を歪め、てめえにさする腰の部位を指示した。俺はあんたの夫じゃないぜ、なんて言いませんよ。

それが何時間続いただろうか。てめえは腰をさすりながら、痛みが引いた時をみて内診をした。子宮口はそれでも開いていない。上級医にも見てもらったが同じ意見だった。これはまだまだ時間がかかりそうだ。

度重なる陣痛の痛みに堪え兼ねて、とうとう彼女は叫んだ。

“kill me! please!”

てめえは「あなたの子供は今この世に出ようとしていてがんばっているんだ、あんたががんばらないとどうするんだ! 生まれて来た子供になんて言うんだ? あなたは愛する子供に会いたくないのか?」と、精一杯の片言英語で言った。残念なことに、最も愛する人であるはずの夫はその場にいなかった。

その後、彼女は泣き言を言わなくなった。夫は気絶したままだった。

それから数時間後、無事彼女の子をとり上げた。元気な男の子だった。生まれた子供を抱きしめ頭を撫でながら、彼女は生まれたばかりの息子に”I love you"と言い続けた。


数ヶ月後、ベビーカーにその子を乗せて、一家は挨拶に来た。気絶していた夫もこの日は付き添っていた。


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