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2007年10月04日(木) |
Factory69(跡部/だいぶ未来) |
また一つ歳を取ってしまった。 そう言うとお前は笑い、まだそんな事を言う歳じゃないだろうと返す。 「いくつになっても跡部さんは変わらないですよ」 変わらないっていうのはひどいな、もう無謀なほど若かったあの頃から何年経ったと思ってるんだ。 「大人になってない、なんて言ってません」 あの頃に比べるとお前は少し口数が多くなったな、樺地。ひどい変化だ。 「ひどいですか」 あぁ、ひどいひどい。劣化だな。 ハイハイと呆れたように呟いているお前、どんなことも受けとめやんわりと押し包むお前、俺はそんなお前にずっと甘えてきたなぁと思う。 「それで跡部さん」 相変わらずお前はでかく、俺を見下ろして言う。 「今年は、何、しますか」 俺を真っ直ぐに見つめるお前、その面に刻まれた歳月は、同じだけ俺の上にある。二人でそれだけの時を生きてきたことに驚く。 「聞こえてますか」 お前じゃあるまいし、ちゃんと聞こえてる。なぁ、樺地。 俺はその呼びかけのおそろしく幼い響きに少しどきどきする。 お前もいい加減思いつかないだろう、それは俺だって同じだ。もう十分だよ。今までいろいろ貰ったし、してもらったし・・・。 いろいろの中には人前で口にしがたいものもある。思い出すと胸の内がめらめらと恥ずかしさで熱くなる。若いっていうのは、ろくなことじゃない。 「それでも、跡部さん」 静かにお前は言う。 「俺は何かしたいんだ。だって特別な日だから」 おおげさだな、お前。 「特別ですよ。跡部さんが生まれていなければ、俺は跡部さんと出会う事もなかった。出会っていなかったら」 お前は小さく首を傾げる。その癖、変わらないな。 「いや、出会っていないなんてことはないな」 なんだ、それ。 俺が笑うとだって、とお前は唇を捻じ曲げる。小さい頃、そんな顔したよな、お前。久しぶりに見た。 「跡部さんがいない世界には、きっと俺もいない。そして跡部さんがいれば俺はきっとあなたと出会うはずだ。だからさっきの仮定は無意味だ」 口数の多くなったお前(それでも他の奴の前では相変わらずだんまりだ)の言い回しはなんだかくねくねとして意味が分かりにくい。昔は俺もお前の沈黙の中に溢れる言葉を、捻じ曲がった言葉を解き明かそうとしたものだけど、今では真っ直ぐにこんなことだって言える。 つまりお前は何を言いたいんだ、樺地。 お前を怖れなくなって随分経つ。お前も俺もお互いを知り尽くしているから、何でも言い合えるし、言わなくても分かる部分が増えてきた。若い頃の俺たちに教えてやりたいものだ。 「つまり俺は」 樺地は言う。 「嬉しいんです。今日が。今年もこうしてあなたとこの日を迎えることができたことにも」 ふん、そうか、と俺は肩を竦める。俺たちの人生に投げかけられる影は日々を重ねるごとに濃くなっていく。時々、そんなことに気づいてしまう。覚悟はできているが、なるべく遠いものであることを祈っている。 そうだな、俺も、お前のいない世界なんて考えられないからな。きっとそんな世界は存在しないんだ、樺地。 じゃあそうだな・・・。 俺はわざとらしいため息をつき、何かしたくてうずうずしている最愛の男のために考える。何かしら思いつかないと。そうすればお前の気が済むんだものな。俺はもう十分なのに。 今までの歳月とこれからの歳月、これだけでもう、十分だよ、樺地。
おめでとう、景吾。その行く末までずっと幸せでありますように
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