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2008年01月15日(火) |
Factory70(樺跡) |
跡部さんがソファに横たわっている。 見開かれた瞳は天井を、その先の空を見つめているかのように微動だにしない。床にひざまずき、その頬に掌を当てる。跡部さんの頬は、跡部さんの手より暖かかった。 頬から首筋に手を滑らせ、跡部さんのネクタイに指をかける。毎日結んで、ほどいているのに、人のものを解くのがこんなに難しいなんて思わなかった。 どこかを見ていた跡部さんの目が俺の指先を見つめるみたいに伏せられるから、ますます指が強ばる。 ネクタイを取り去り、シャツを留める小さなボタンを外す。こんなこと、毎日繰り返しているのに。ふいにやり方を忘れてしまったみたいに、指がためらい、迷って、なかなかできない。 下までようやく行き着き、俺はほっとして息を吐いた。 跡部さんも息を吐き、身じろぎした。開いたシャツの隙間から手を差し入れると、跡部さんの身体が驚いたみたいに小さく跳ねた。 指を滑らし、シャツの前を大きく開けて行く。跡部さんの左胸に到達する。肌の下で鳴る音を掌で感じた。もっと聞きたくて、俺はそこに耳を当てる。跡部さんは小さく息を飲み、身体を強ばらせた。 そのリズムがいつも通りなのか、早いものなのか、分からない。 「樺地」 耳をつけたまま、いつものように返事をする俺の髪に、跡部さんが指を絡めて引っ張る。 「何か聞こえるのか」 跡部さんの音を聴いている、と俺は答える。跡部さんの音と、俺の音が、同じに重なっていることも、付け加える。ふうん、と跡部さんは言う。 「お前がしたいのって、それだけ?」 俺は耳を離し、跡部さんの顔をのぞきこむ。 「樺地。そんな困った顔したって、俺には分からないんだからな」 跡部さんが眉間を寄せ、俺を睨む。 「いつだって、俺がお前の答えを知ってると思ったら大間違いだ」 跡部さんにも分からない事はある。俺はそれをこれから解かなければいけないわけだが、どんな答えでもきっと跡部さんは受け止めてくれるような気がした。
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