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2006年03月15日(水) |
Factory62(宍戸・跡部) |
『二番目のタフガキ』
「なんだ、これ?」 宍戸は首を捻る。 「全然見えねぇじゃん」 本館から新館へ繋がる通路の両側には、この前行った修学旅行の写真が掲示されている。昼休み、クラスの友人達とひやかし半分にのぞきに来てみると、なぜか自分のクラスの前にだけ人だかりができていた。 「そんなの分かるだろ」 聞き慣れた声に振り向く。両手に抱えたノートの束を顎で押さえるようにして立ち止まっているのは岳人だ。 「おい、大丈夫か?」 ムッとしたように岳人が顔をしかめる。 なんだよ、その反応 去年、同じクラスだった時には、宍戸が手を貸すのにも素直に応じてくれたものなのに。この頃はちょっとでも心配したような素振りを見せると、俺にかまうな、と毛を逆立てた猫みたいに怒り出す。 「分かるって、なにが?」 それを言ったところでうるせぇと言い返されるのがオチだ。宍戸は素知らぬふりで、そう訊ねる。。 「簡単じゃん。宍戸のクラスに誰がいるか考えれば」 「誰って・・・あぁ」 宍戸はパンと手を打つ。 「俺?」 岳人どころか友人たちまで呆れたような眼差しで見てくる。冗談にきまってるだろ、と宍戸は心の中で呟いた。 「すっごい人気だよなぁ、相変わらず」 よいしょっと岳人がノートを抱えなおす。日直かなんかで、ノートを持って行けとでも先生に頼まれたんだろうけど。無理矢理奪って持ってやろうかな、と思った時、宍戸と岳人の間に腕が割り込んだ。 「俺のノート、どれや?」 半分ほど取り去ったノートを手に持ち、パラパラめくっているのは忍足だ。よぉ、と宍戸が言うと、あぁと面倒くさそうな声をあげた。 「出席番号順になってるわけじゃないから、分かんない」 顔を上げた忍足が、ぐいと首を曲げて宍戸の肩越しを見つめる。 「うわっ王様、人気もん」 まるで今気付いた、とでも言うように忍足の目が宍戸に向く。 「みんなあいつに夢中やな、自分みたいに」 行こっ岳人、と忍足が岳人の腕を肘で突く。 「宍戸、またな」 「あぁ」 岳人に頷きながら、宍戸は振り返りもしない忍足の後頭部を睨みつける。 なんだ、あいつ。ムカつく奴 初めて会った時からその印象は変わらない。たぶん向こうも同じだろう。なんとなく虫が好かない相手っていうのもいるもんだ。岳人がいるからぐっと堪えているが、そのうち大喧嘩しそうな予感がする。 いっそ、その方が片がついていいや 同じように、最初、互いに良く思わなかった相手の事を宍戸は思い出す。あいつとは喧嘩しまくって、まぁ仲良くとまでは言わないが、平和条約を結ぶ程度までにはなった、と思う。忍足とはそうなるとは限らないが、お互いムカムカしているより、よっぽどすっきりする気がする。 だいたいなんだよ、夢中って 掲示板に群がる女子を宍戸は見つめる。 「なぁ、俺たちも見たいんだけど」 声をかけても誰一人動かない。 ほらみろ、夢中ってこういうことだろう、俺のどこがこいつらと一緒なんだ 宍戸は笑いながら、苦い思いを噛み潰す。
「跡部、お前の写真バカ売れしてるぜ」 開いた文庫から目も上げず、あぁそうか、と関心なさげに跡部が言う。 「気にならないのか」 「別に」 写真でも観に行こうぜ、という宍戸たちの誘いを断ったのは、たぶんあぁいう状態になっているのを分かっていたからだろう。そういえば一年の運動会の後、学校専属のカメラマンが撮った写真を販売した時も、跡部の映った写真がクラスの人数の倍以上注文があったという噂を思い出す。 「お前のファンこえぇぞ」 宍戸は言う。 「写真、見たいんですけどーってめちゃめちゃ丁寧に言ったのにすんげぇ睨んできた」 あれ三年の女だったな、と宍戸の友人が言う。 怖かったよなぁ、ともう一人がわざとらしく震える。 「どうせお前がなんか余計なこと言ったんだろ」 「言ってません」 宍戸は見えないマイクを握る拳を、跡部へ突き出す。 「はい、じゃあ一言どうぞ」 ため息を吐く音が聞こえた。 「俺を好きなのはそいつらの勝手だ。そいつらの行為に対して、俺には何の道義的責任もない」 「跡部、お前の言う事、難しくってわっかんねぇよ」 「じゃあ分かるように言ってやろう」 跡部は本を閉じ、顔を上げる。 「俺に言える事はなにもない。以上」 「以上って」 「あとはよきに計らえ」 「なんだ、それ。よきに計らえって、お前、お殿様か?」 「あぁ俺を敬いたいんなら、止めないぜ」 「お前、そんなんだから王様って言われんだよ」 王様、王様、と宍戸の友人達が声を上げる。 王様と言うのは最近ついた跡部のあだ名の一つだ。三年のレギュラーと校内試合をした時、跡部のデカイ態度に頭に来た部員が、王様ぶってんじゃねぇぞ、と言った時、「そんなに俺を崇めたかったら、そう呼ばれてやったっていい」とか答えたらしい。あいつ、おもろいなぁとその試合を間近で見ていた忍足が何度も何度も話すものだから、広まったようだ。 お前本当にそんなこと言ったのか?と訊いたら、俺は伝説を作られることにはなれている、と真顔で返してくるので、宍戸は息ができないぐらい笑ってしまったものだ。 まぁ、今のこいつなら言いそうだけど。 囃したてる友人達に向かって、跡部は澄ました顔で、声援に応えるように腕を上げてみせる。友人達や気付いたクラスの生徒達がゲラゲラ笑い出す。 気取った仕草をしてみせるのは一年の頃からだけど。前はこうはいかなかった。 俺はくだらないことをされるのもするのも大嫌いだ、お前達の幼稚さにつきあってる暇なんてない 怒りを覚えるのさえ馬鹿馬鹿しいと、醒めた視線を向けられたのは、そう遠くない過去。ことさら孤立しようとしていた訳でもないだろうが、だからと言って周囲に交じろうともしなかったのに。 変わったな、と思う。 たぶんそれは俺もだ、宍戸は握ったままの拳を見つめる。今年に入ってからはまだそれを人に向けた事はない。自分も跡部もちょっとずつ変化している。それがなんだか面白い。 「宍戸」 呼ばれてハッと我に返る。 「立ったまま授業受ける気か」 跡部が机から教科書を出す。振り向くと教室に教師が入ってくるところで、宍戸は慌てて席に着いた。そうだ、この先生はベルより先に教室に来るんだ。 起立、礼、着席。退屈な授業の中でも一番退屈な五時間目が始まる。早々に眠気におそわれ、宍戸は立てた教科書の影で欠伸を噛み殺しながら、ぴんと背筋を伸ばし、前を向く跡部の生真面目な顔つきを見つめる。さっき掲示板に貼られた写真の中にもこんな横顔があった。史跡の説明を聞いてた時のものだろう。 そんなのがいいのか、と思わず口にしてしまった宍戸は、せっせと写真をチェックする女子達に、一斉に睨みつけられたのだ。 別に余計なことじゃねぇよ 宍戸は本心からそう思ったのだ。だってそんな顔してる跡部なんか、全然普通で、全然つまらない。 あの女子どもも試合観てるはずなのに きゃあきゃあ声援を送っているのに、気付かないんだろうか。宍戸はふわぁっと欠伸する。 だめだ、超眠い がくりと項垂れた宍戸の意識は徐々にそこを離れる。
ボツになった宍戸と跡部の話。プロローグ。 宍戸は一年の頃岳人と仲が良かったけど、二年で同じクラスになった景吾に夢中(愛とか恋とかでなくまぁなんちゅうか関心がそっちいっちゃった)なのに、自分の友達が他の子と仲良くしてるとなんか気に入らないよねって感じ。ま、子供だからね・・・。宍戸と忍足はまだなんとなくソリが合わない。そんな頃。そのうちこの頃の話をなんとかしたい
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