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2006年03月14日(火) Factory61(榊/芥川)


あの子はちっとも言う事をきかない。


「だって太陽が出てるよ」
私があの子の年頃の時は反抗するにももっと理屈っぽい物言いをしていた気がする。
「あったかいよ、今日」
そう言いながら、かけてやった私のコートをぐるぐると身体に巻きつける。
「先生、ここ」
ポケットを探っている私に、あの子が煙草とライターを突き出す。コートに入れたままだったようだ。
「わっかできるようになった?」
私は首を振り、風下に立つ。
「もう春だよ、先生」
あぁ、そうだなと私は言う。冬枯れの芝も寒々しい木々もまだそう告げてはいないのに。
「間に合わないじゃん」
私は何も言わない。
「やだなー、春」
あの子が立ち上がる。
「やだなー、春」
投げるようにコートを返し、校舎に向かうあの子の背中を見ながら、吐き出した煙はきれいな円を描いて消える。




 

 

 

 

 

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樺地景吾
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