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2006年07月06日(木) |
Factory63(樺地・跡部/未来) |
思いがけない時間に鳴る電話にももう慣れた。 一定のリズムを保ってなるあの音、放っておけばカチリと小さな音を立てぼそぼそと不在を告げるきみの声が響くだろう。でもきみは首のうしろをもみながらベッドから足を降ろし、暗闇にまだなれない目を瞬かせ手探りで電話に辿り着く。
はい、受話器に向かって言うと、しばらく間を置いて、いたのか、と声が言う。いましたよ、と返すとじゃあさっさと出ろよ、待たせるな、なんて言い出す。きみは液晶表示の時計を見るがそれを口に出したりはせず、どうかしたんですかと言う。
どうかしなきゃ電話しちゃいけねぇのか
笑い出しそうになる。堪えたはずなのになんだよと電話の向こうで不満げな声があがる。どうして分かるのかなといつも思う。あの人にはいろんな事を覚られてしまい、それがずいぶん恥ずかしかったこともあったなと思い出す。
話す事はあまりない。きみの近況はこの前と変わらない、電話に出ると言う事はまぁそこそこ元気だという事だから、言うまでもない。電話の向こうにいる人も、さして用事はないのだ。暑いだの寒いだの田舎だの人が多いだの勝っただの負けただの、ポツリポツリと喋るだけ。きみはあぁだのうぅだのウスだの短い相槌をうつ。ちゃんと話を聞いているつもりなのに、時々は眠気に負けて上の空になる。なにしろあの人はこっちの都合も時差もなにも考えないから。そんな時もちゃんと分かるらしい。お前全然聞いてないだろうなんて言い出す。全然ということないと、きみは見えもしないのに首を振る。
俺はなぁ、お前が寂しいと思ってかけてやってるんだ
きみが笑い出したことであの人はすっかり機嫌を損ねる。舌に載せるには甘すぎるような言葉を、きみは口にしなければならないだろう。
電話を切った後で君は気付く。あんな風にひねた言葉や甘い言葉をつむぐ、その唇をずいぶん目にしていない、ずいぶん触れていない。きみは少し寂しくなり、跡部さんの言う事もあながち間違いじゃないなと思い、ため息を吐きながらふたたび眠る。
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