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2004年08月03日(火) |
Factory46(樺地・跡部) |
でかいってのは損だな。どこにいたってすぐに目につく。探してるわけじゃないのに。 跡部の目は、購買のパン売り場の前に群がる生徒からすくっと飛び出している見慣れた後頭部を映す。その後姿はいつまでも窓口から離れない。 迷う性質じゃねぇのに。何、トロトロしてるんだ。 「樺地、わたしもー」 どこかから上がる声に振り向いた樺地がぬっと腕を伸ばして、突き出された小さな拳からこぼれる小銭を受け取る。 「チョココロネとねぇ、ツナとねぇ」 うんうん頷く樺地に、「お前、ずるするなよ」とどこからか、声。 「ずるじゃない、頼んでるだけじゃん」 そうだよねぇ樺地、なんて言われている樺地の背中がちょっと曲がって右肩が下がる。 あぁ困ってる、困ってる。 でも表情はちっとも変わらないから。だから誰も気づかない。損だなぁ、お前。 跡部は並んでいる生徒たちの列の後ろにつく。 別に声もかけないし、止めさせたりしない。あいつにはあいつの付き合い方があるんだし、俺には関係がない。 跡部は素知らぬ顔をして、樺地が頼まれるままにその近くにいる女子の代わりにパンを買ってやるのを目の端で見る。 おひとよし。 心の中で呟く言葉。実際に口にしたこともある。そう言うと、樺地は首を傾けるようにして、そうですかね、って問い返すように跡部を見たものだ。 あぁそうだとも。お前はおひとよしで、誰にでも優しい。昔からそうだ。優しいというか、気が弱いというか。 だから俺と一緒にいられるんじゃねーの。 その言葉は口にしていない。何が返ってくるか、跡部には分からないから。 「ありがとう樺地」 パタパタと駆けてゆく女子たちを跡部は何気なく見送る。 なんだ、ブスじゃん。 だからってそれに何の意味もないし、そんなことを思うのは心が狭い。醜い。馬鹿馬鹿しい。 前を向くと、買い終わって、歩いてくる樺地とちょうど目が合った。 樺地が頭を下げる。 そう、俺は先輩だからな。 「お前菓子パンばっかりじゃん」 樺地がどっさり抱えている甘そうなパンを指差す。 「みんなで食べるんです」 樺地が小さな声で言う。 「みんな?」 うんうんと樺地が頷く。 「なんだぁ、パシらされてんのか」 「じゃんけんで」 負けたから買いにきたのだと言う。 「お前のおごり?たかられてんのか?」 まさか、と樺地が肩をすくめる。 「樺地〜、買えたかぁ」 大きな声に振り向くと、両手に紙パックのジュースの入ったビニール袋を持っている男子が立っている。跡部にあっと気づいたような顔をするが、跡部はその生徒を知らない。テニス部では見ない顔だ。たぶん樺地と同じクラスなのだろう。樺地ほどじゃないが向こうもずいぶん背が高い。 やっぱり大きな奴は大きな奴とつるむのかな、似たもの同士、なんて思う。 「失礼します」 跡部はあぁと樺地に頷き返す。樺地は跡部の知らない男子生徒と肩を並べて歩き出す。甘ったるいパンとジュースを食べてダラダラと昼休みを過ごす、あれがあいつのいう「みんな」の一人なのか。 普段どうしているのかなんて、俺は知らない。あいつのいう「みんな」に俺は入ってないんだから、ま、知る必要もないんだ。 「なぁ、あれ、樺地の言ってる先輩だろ?」 大きな声に振り返ると、ちょうど樺地が隣の男子に肩ごとぶつかってるところだった。黙れ、と言わんばかりに。 なんだよ。 樺地の奴、何、喋ってんだよ。俺のこと。俺のいないところで。人のいないところで喋ることなんて、ろくでもないことに決まってる。 跡部はムッとして唇を結び、列にしたがって前へ進む。
なんとなく首の後ろにちりちりと視線を感じたけれど、きっと気のせいだろう。
★拍手用に書いたけど長くなった気がしたので。樺地がクラスでどう過ごしているか考えるのが楽しい。バスケ部とかバレーボール部とか柔道部とか野球部と仲が良いと良い・・・体育の時間でバスケでダンクなどを決めてしまい「お前うちの部こいよ!」とか言われると良い。しばらくあだ名がNBAに行った中国のでっかい選手(名前忘れた)などと呼ばれると良い。 仲のいい子は全員でかいのでクラスではその一角をガリバー王国などと呼びます。 景吾の知らない樺地は結構楽しく暮らしています★
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