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2004年02月22日(日) |
Factory37(鳳・宍戸) |
「闇の中のオレンジ」
腕の中の熱の塊。人間ってこんなにあったかいものなのかな。 よく分からない。 誰かをこんな風に抱きしめた事なんて今までないから。 傾けた頬に宍戸さんの髪があたってくすぐったい。くしゃみが出そうでちょっとだけ身体を離した。
どうしていいのかよく分からない。 言い出したのは俺の方だけど、宍戸さんが頷いてくれると思わなかった。慌ててなんだかよく分からないうちに、部屋の電気だけ消す。気配に手を伸ばして、ぎゅっと抱き寄せた。 心臓の音が頭の中でわんわん響いて、身体中の血が沸騰する。きっと俺の顔はすごい色になってるだろうから、電気を消したのは正解だったかもしれない。つまんない事が頭の中をすごい勢いで流れてゆく。
ぽっかり浮かんで光る宍戸さんの眼。その光に俺はいろいろと聞きたい事があったけれど、口を開いたら何もかも全部失ってしまいそうだから、黙って、複雑な結び目を解くように宍戸さんの服を剥いでゆく。思うように指が動かない。汗が吹き出てくる。ちらりと宍戸さんを見ると、真剣そうにもつまらなそうにも見えるような顔つきをして、結んだ唇がとても甘そうで、花に寄る蜜蜂みたいに引寄せられる。
キスをした後で宍戸さんは俺の頭を軽く叩いた。俺はいつものくせですいません、って言いそうになるけど、口をつぐむ。ほんの小さなささやきでも今は口にしてはいけない気がしたから。
思ったより宍戸さんは痩せていて、硬くて、骨ばっている。とても柔らかく、しなやかで、なめらかで、夢中になる。宍戸さんの吐く息が深くなり、俺の息は荒く短くそれに絡まる。
宍戸さんを傷つけたくなんかないのに、それはまるでこの人を苦しめているようで、怖くなる。掴んだ腕、握り締めた指、重なる足、溢れる熱がこぼれ、目がにじみ、世界が霞む。
ベタベタした身体が急に冷えてゆく。ぐったりと力を抜いて横たわる宍戸さんに手を差し入れる。驚くぐらい無抵抗に宍戸さんが俺の腕に転がってくる。何か言わなきゃ、思っても言葉が生まれない。 身体をずらして、宍戸さんの頭のすぐ傍に顔を持ってゆく。昼間の熱をそのまま封じ込めたみたいにあったかい宍戸さんの目は、この暗がりの中で太陽の光が映る湖の面みたいにきらきらしている。その光に寄せるように頬に手を添えると、何か言うみたいに頬が動くのを手の下に感じた。
「何ですか?」
俺の声はひどく泣いた後みたいにしわがれて聞こえた。
「これが」
宍戸さんが小さく呟いた。その声にはどんな感情もこもってないように思えた。
俺はその続きを待った。 待ったけど、宍戸さんは何も言わず、どうしてかそれにホッとしながら、またキスをした。 唇を強く押し付けて、噛み付くように、吸い込むように、この人の内から出てくる言葉を封じ込めるように。
宍戸さんの熱を奪うようにして、俺の熱が高まる。闇の中に浮かぶ光に手を伸ばす。それが俺の腕の中でゆっくりと消えてしまう事になんて少しも気づかず、俺は夢中になってゆく。
★メモ。Factory20・Factory23の前あたりかな・・・。★
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