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2004年01月01日(木) Factory32(樺地・跡部)


 お母さんが呼びに来たので玄関まで出て行った。

 あけましておめでとうございます

 今日はそんな挨拶をする日なのでそう言ったのに、跡部さんは黙って目をぱちぱちさせてこっちを見上げるだけだ。人の顔に何かついているみたいにまじまじと見るので、さっき食べてたおもちでもくっついてるのかなと心配になって口のあたりをごしごしこすってみた。

 あ、おめでとう、樺地

 跡部さんが言う。頷くみたいに頭を下げるので、俺も頭を下げる。ちょっと大人の人同士みたいだ。
 
 崇弘、跡部さんにもちょっとあがってもらいなさい

 お母さんの声が聞こえる。跡部さんは首を振った。

 いいよ、今日はお前んちもお客さんでいっぱいだろ
 
 なんで分かるんですかと訊いたら見れば分かるだろうと言う。
 玄関にはおじさんやおばさんやいとこたちの靴でいっぱいだ。俺の部屋には誰もいませんよと言ったけど、跡部さんはいいからさっさと行こうぜと先に玄関を出てってしまう。
 跡部さんと、ちょっと先にある神社にお参りに行く。明後日、部の皆とも行くのだけれど、さっき跡部さんから電話があって「暇だったらつきあえ」と言われたからです。
 俺はお母さんにちょっと行って来ますと断ってから外に出た。先に歩いていってるかと思ったけど、跡部さんはそこで待っててくれた。

 なぁ、それ、なに

 跡部さんが指を指す。跡部さんが指を指した方には俺しかいない。何かおかしな事になっているのかと自分を見回してみる。

 お前、着物なんか。どうしたんだ、いったい

 俺の袖をそっとつまんで離して、ちょっと下がると、へぇと珍しいものを見るみたいに声を上げる。なんだか恥ずかしくなる。これはお祖母さんがお祖父さんの着物を仕立て直して着せてくれたものです。お祖父さんは昔の人にしては大きかったので俺にちょうどいいんだとお祖母さんは言いました。
 崇弘も昔で言ったらもすぐ元服ですよ、とお祖母さんは言って、ちゃんとした格好で新年を過ごすのもいいものだとお母さんと一緒に着せてくれました。でもやっぱり恥ずかしい。着替えてこようかなと思ったけれど、跡部さんがずんずん先に行ってしまうので、あきらめた。

 普段の靴と違って歩きにくいから、なかなか跡部さんに追いつけません。行くところは分かっているから平気かなと思ったけど、途中で跡部さんは止まって俺を待ってていてくれた。
 何か言われるかなと思ったけど跡部さんは何にも言わない。すいませんと言っても何も言わない。
 一緒に並んで歩いても何も言わない。時々こっちを見るけど、首を傾げるみたいにして、視線を下に落とす。
 よく分からない。だから、どうしたんですか、と訊いてみた。

 どうもしねぇよ

 マフラーに顔を埋めるようにしているから言葉がもごもごこもって聞こえる。どうもしないんですかと言ってみる。

 そうだよ、どうもしてねぇよ

 言いながら顔をあげて俺を見上げた。

 ただ、なんか違う人みたい。お前

 俺は俺ですよと言ったら、うんそれはわかってると答える。一緒ですよと言ったら、だから分かってるってと声が強くなる。

 ちょっと思っただけだ。意味ねぇから

 跡部さんは肩を竦める。

 案外似合ってるから。安心しろ

 そんな事を言うので、俺は何を言えばいいか分からず、はぁと息をつくみたいに返事をする。

 お前なぁ、俺が誉めてやってるんだから、もっとなんとか言えよ

 跡部さんはちょっと笑うと肘で突いてきた。ありがとうございますと言うと、それも変だと笑った。

 明後日もそれ着て来るのか?

 着ませんと答えた。窮屈だし、歩きにくいのでもう今日でおしまいです。

 なんだ、もったいねぇなぁ。かっこいい樺地を見せてやればいいのに

 かっこいいんですかと訊くと、冗談だバーカと言われた。その後、跡部さんはマフラーに顔を半分埋めるみたいにしていた。耳が赤いのでよっぽど寒いんだろう。
 今日はゆっくりにしか歩けないので、神社まではまだまだある。早く着いて、甘酒であったまるといいと思う。俺は飲めないけど。










☆本年もよろしくお願いします☆
景吾はもっともっと樺地にときめくがいい。ときめくほどに美しくなる景吾です
  




 

 

 

 

 

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