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2003年11月15日(土) Factory28(2年生たち)


 正直でありたい。思った事を言いたい。
 だから俺は言ってやった。
「鳳、お前、ホント、バッカだなぁ」
 のろのろと顔を上げて、どこがぁと呟く鳳の声が風に流れる。
「全部」
「全部。全部はall、えー・える・える」
 腹ばいになった長いベンチからだらりと下に手を伸ばし、鳳が屋上のコンクリートの上をなぞる。
「ふざけんな」
 思い切りベンチを蹴っ飛ばしてやったのに、揺れてほんの少し動いただけ。だから鳳がわぁと声を上げたり、やめろよ日吉って叫んだり、そこまで大げさにすることないはずだ。
「さっさとしないと昼休み終わんだろ」
 ハイハイすいませんと言いながら起き上がった鳳は、口調ほどすいませんなんて思ってもいなくて、ムッとしたように頬をふくらませている。
 どうしてこんなにでかいのに、思い切りガキなのか俺には全然分からない。
 精神年齢で身長が決まるなら、鳳は140センチぐらいでいいと思う。
 そうしたら俺なんかこいつぐらいあっていいはずだ。そう思ってなんとなく隣に立つ樺地を見る。
 樺地はいつもの通り、我関せずって感じで俺と鳳に視線だけ向けていた。
「だいたい朝、お前の教室でって言ったのお前だろ。どうして屋上なんかに来てんだよ」
 鳳は答えない。俺と樺地を上目遣いで見ながら、唇を曲げて、足をガタガタ揺らせている。
 それがわざわざクラスの奴に聞いて(誰もどこに行ったか知らなかったけど)探して(返事を聞いた樺地が屋上に向かうのに付いていっただけだけど)来てやった相手に対する礼儀なのか。
 馬鹿にしてる。
 でもこいつ、馬鹿だから仕方がない。屋上のベンチからはみ出した足をブラブラさせながらねっころがっていた馬鹿に言う言葉なんかない。
「ほら、じゃ、これ」
 目の前に差し出した書類を手に取って、ぺらぺらめくっているけれど、視線をすべらしているだけ、関心なんか全然なさそう。
「いいんじゃないかなぁ、これで」
「お前、いいかげんな返事するな」
「え、なんで。いいと思ったからいいって言ってんだよ」
 言いながら鳳はそれを樺地に渡す。
 樺地は目をパチパチさせて、声には出さないけど口が書かれている文字を綴るように小さく動いている。
「樺地、部屋割りのチェックは昨日したから、こっから」
 樺地の持つ書類に横から手を伸ばして指してやる。樺地が動きを止めて、俺をじっとみる。まるで物珍しい何かを見るように。
 どうしていつも樺地ってこうなんだろう。俺にはよく分からない。
 樺地は俺の言うとおり、紙をめくってまた口を動かし始める。
 今回、俺たち三人が任されたのは、今度の合宿の部屋割りとスケジュール立てだ。つまんない雑用だし、どうせ跡部部長が最後には調整するんだろうけど。
 でも俺たち三人でやれって言われたんじゃないか。
「お前も樺地ぐらい真面目にやれよ」
 俺と樺地の向こう側にある何かを見通すようにぼんやりしている鳳にそう言ってやる。
「え、なに。なんで」
 鳳が目を丸くして不思議そうな顔をする。
「協力しようとか、やる気とか、全然ないだろ、鳳」
「そんなことない」
こんなでっかい奴がこんな弱々しい声でしゃべるなんて。変なの。いつもと違う。
「お前、具合でも悪いの?」
だから聞いてみる。
「元気だけど」
ケロっとした顔で言う。なんだ、それ。さっきの、俺の勘違いか。ムカつく。
「じゃあちゃんとやれよ。先輩にばっかいい顔見せてないで。俺たちにも・・・」
「俺、いい顔してんのかな」
また声がか細くなる。でっかいくせに、なんだ、それ。
 俺が何にも言わずにいると、鳳は何か言いたそうに口を開きかけて、でも何にも言わずに、ハァと大きく息を吐いて肩を落とす。
 本当はそんな裏表があるような、器用な奴じゃない。どこに行っても、誰に対しても馬鹿なまんまだ、鳳は。
 だけど最近気がついたんだ。鳳はあの人の前だけちょっと違う。いつもと変わりないように見えるけど、顔つきとか声とか、違うんだ、全然。
 だからって何かあったのかとか、そんな事聞かない。
 余計な事はしない。他人の、鳳のことなんかに関わってやらない。
 だけど。
「それでいいかな、樺地」
 樺地は丁寧に紙を折り畳んで、頷きながら俺に返してきた。俺と鳳を見据える視線が戸惑っているように見えた。
 なんでもない、ほっとけばいい、こんな奴。そう言ってやろうと思ったけど。
 正直でありたい。思った事を口にしたい。
 だから俺は言ってやった。
「お前さぁ、どうかしたの、鳳」
「なにが」
 身体を丸めて膝の上に肘を立てて、その手の中に半分顔を隠すようにしてるから声がこもって響いた。
「変だよ」
「どこが」
「全部」
「全部か」
 声が崩れる。鳳の顔が両手に埋められて、そこからひゅーと思い切り息を吸い込むような変な音がした。両肩がぶるぶる震えだす。
「泣くなよ」
 驚いて当たり前のことしか言えない。
「なんなんだよ、いったい」
 訳が分からなくて、腹立たしさが言葉に出てしまう。樺地がいきなり動く。何をするのかと思ったら、泣いている鳳の背中をポンポン叩きだした。赤ん坊をあやすみたいに。
「泣くなよ。泣いてたら分からないだろう」
 樺地が俺の方を見るので、仕方なく俺も、落ち着かせるように鳳の肩に手を載せた。汗っぽくてじんわり生暖かい。
 俺よりでっかくてガッチリしているはずなのに、なんだか頼りないかわいそうな子供を相手にしているように思えた。
「泣くなって」
 そう言う俺の言葉も情けなく響く。
 鳳は泣きながら小さな声で何かずっと呟いている。それは言葉になっていないから、俺にはさっぱり分からない。だけどそれはとても痛ましくて、哀しくて、かわいそうで、俺の足をそこに縫いとめてしまう。

 予鈴がなっているのに、俺たちは三人、誰も動けずにいる。













★5555キリ番長、ハワイさんのリクエスト「2年生の日常の一コマ」・・・のはずが!鳳宍ゾーンに連結してます・・・。鳳は身体はでかくてもどこまでも子供。ちゅうか日吉・・・中坊な日吉と思ったらなんか・・・修行します・・・★




 

 

 

 

 

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樺地景吾
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