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2003年10月05日(日) |
Factory25(Closer) |
これほどの痛みを彼は感じたことがなかった。
ズキズキと腕から這い上がり、心臓にまで達するような痛み。相手もそうなのか。打ち返してくる相手を見据える。分からない。彼の手はぶるぶると震え、身体の熱がそのまま結晶したような質感のある大粒の汗が流れ、以上を伝える。もうだめだ。彼は耐えられない。
「もう、打てません・・・」
手から滑り落ちるラケット。眼差しが霞み、立つことだけを考える。コートの上で膝だけはつきたくない。
何を言われるのか。痛みに耐えかねて試合を放棄したのだから、どんな言葉を浴びせられても仕方がない。この痛みと疲労、辛さに比べれば、言葉で裂かれる方がましだから。
彼はあの人の前に行く。あの人の前に立つがその目を見る事ができない。
うなだれて立ちつくす。あの人は何も言わない。無言の時がこれほど重いと感じた事はなかった。普段なら、何も言わないのは彼の方だから。
顔を上げる。かすかに眉を寄せ、彼を睨む、あの人の瞳を見た。探るように視線を合わせる。落胆、嘲り、怒り。どれもそこになかった。
不安、いたわり、煩悶。彼に寄せられる思いのさざ波が、あの人の目に揺れている。
息が止まりそうになる。胸に滑り込む何かが肺を圧迫する。苦しくて身動きが取れない。 なぜこんな風にこの人は俺にやさしいのか。 その優しさが彼には耐え難く感じられる。もっと責めて、軽蔑してくれればいいのに。
誰かが彼を病院へ連れてゆくと言う。 「行ってこい、樺地」 彼は従う。その場から逃れられる事に密かに胸を撫で下ろす。
痛みに反して、彼の身には何の異常もなかった。 うちの部長ときみのところの部長の試合がもう始まってるって 試合中とは人が変わったようになった対戦相手とその学校の監督とともにふたたび試合会場に向かう車内、彼はぼんやりその言葉を聞いた。
誰かが彼に大丈夫かと聞く。曖昧に頷く、彼の目はコートに注がれ、二度と逸らせなくなる。
その人の眼差しは鋭く、薄く開いた唇から吐き出す荒い呼吸音が彼の耳にまで届くようだった。真摯なまでにボールを、相手を見据え、打ち返し、また打ち放つ。あの人と相手の作り出す緊密さ、無情と歓喜の横たわる空間。誰にも脅かされない、冴え冴えとした美しさがそこにある。 俺はあれを放棄してしまった。もう二度とあれには近づけないだろう。 彼の胸に思いがよぎり、彼に迫る。鼓動が激しくなる。あの人は強くなくてはいけないのだ、そう彼は思う。だとしたら。彼は考える。この尊さに近づけないのなら、せめて、損なわぬようにと。
目の前の試合に全身が釘付けになりながら、彼は確信する。
あそこに俺は立てない。 心をチリチリと焼く火が、先刻とは比べものにならぬ痛みを彼に覚えさせる。
あぁこれが嫉妬というものだろうか。
★意気地のないぼんやりした子供が一人の天才と出会って変わってゆく話が書きたい。子供は人間らしい清らかな感情も薄汚い感情もその天才によって全て与えられてしまうよ!何にも知らない頃は良かったのにね・・・そんな話が書きたいからメモ。原作読み返してないからいろいろ適当★
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