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2003年07月11日(金) Factory04(鳳・日吉)


 眉間にシワをよせた鳳は、昔、上の兄が隣の家で飼っていた真っ白な紀州犬に太いマジックで眉毛を落書きしたような、あんな感じ。
 面白すぎる。
 面白すぎて俺は笑ってやりたい。似合わねぇと言ってやりたい。でも笑わないし言ってもやらない。
「高校ってさ、ベストの色が一色増えるんだって」
 俺は声に出さず、でも聞いてやってるんだって風に曖昧に頷いてやる。
「高校ってさ、ネクタイが三つあって好きなの選べるんだって」
 俺はまたふーんと聞き流す。そうしているように見せる。
「ずっとそんな事ばっかり俺に話すんだ、あの人」
 あぁそうですかと俺は心の中で返す。
「なぁ、そんなに高校って楽しいものなのかなぁ、日吉」
 俺に聞くな。そんなおかしな顔つきで俺を見下ろすな。
俺の名前を取ってつけたみたいに最後に呟くな。
「俺さぁ、どうしてもっと早く生まれられなかったのかなぁ」
 保健体育の授業で寝てたのか。理科の授業も寝てたのか。
夢みたいなことばっかり口に出して、答えようもない事を言う。
答えなんかいらないからそういう事を言うんだろうか。
求められていない答えを考えてやるほど俺は親切じゃない。
こいつにそんなことしてやる筋合いだってないのに。
「どうしよう、俺」
 そうして鳳が俺を見る。俺じゃない誰かに本当なら向けられる目。
そんな風に見んな。俺じゃないものを今ここに見るな。
 鳳、お前、悩んだフリすればするほど間抜け面だな
俺は馬鹿にしたように聞こえるだろう声で鳳の眉間を指でぐりぐり押して伸ばす。
「やめろよぉ」
 鳳が俺の手を払う。
「真面目に聞けよ」
 なんで俺が?
「だって」
 口ごもるなよ。目を背けるな。途方にくれてるみたいになるな。
「だってさぁ、お前は」
 俺は次に出てくる言葉が何か知っている。
それでも肩に少しだけ力が入り、身構えてしまう。
早く言えよ。分かってるんだ。イライラする。




 

 

 

 

 

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樺地景吾
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