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2003年07月10日(木) |
Factory03(樺地・跡部) |
備品の点検に日誌の記入に戸締り。跡部がいつものような部長としての雑用を終える頃には、部室に残っているのは彼と樺地だけになっていた。秋の陽射しは傾くのが早く、ほの暗さを増してゆく部屋で帰り支度をしていると、明かりを付けようと樺地が壁のスイッチに手をかけるのが見えた。 必要ない、樺地。もう終わるから 跡部の言葉に、樺地はいつものような短い返事をして従う。 お前いつも早いな、着替えんの ロッカーの扉の裏についているフックにひっかけていたネクタイを手に取り、跡部は後ろを向く。ずらりと並ぶロッカーとロッカーの間におかれたベンチに腰掛けている樺地は小さく頭を動かす。彼の言葉に頷くでも頭を振るでもない曖昧さで。その膝の上に、跡部はネクタイを落とした。 やってくれ 跡部は昂然と頭をそらす。樺地は躊躇いもせず、その手に持ったネクタイを彼の首に巻き、彼が開け放していたシャツの第一ボタンを丁寧にかけ、彼の方へかがみこむようにしてネクタイを結ぶ。その手つきは手早く無駄がなく手馴れたものだった。 最後に跡部のシャツの襟を整え、後ろに下がろうとした樺地のネクタイを、跡部はいきなり強く引っ張る。引き寄せた唇を、そのまま捕らえた。 よろけた樺地が彼の開け放したままのロッカーの扉に片手をつき、大きな金属音があたりに響く。 樺地の頭を押さえつけるようにして両手で挟み、乾いた唇を吸い、離れ、またその唇を塞ぐ。跡部の耳に聞こえるのは、樺地が手を置いた扉のたてる音、彼が樺地に触れる音、彼の息が乱れる音、それだけだ。
跡部の腕が樺地をようやく解放する。彼の前で姿勢を真っ直ぐにした樺地の唇は彼の蹂躙でぬめぬめと忌まわしく光っている。 なぁこれっておかしいだろ 跡部は樺地の瞳をさぐるように見ながら呟く。 そう思うだろ、樺地 しかし彼の前に立つ人は、その言葉を否定も肯定もせず、返答もせず、ただ穏やかな海のような眼差しを彼に注ぐだけだ。 俺は 言いかけて、跡部は口を閉ざす。何を言えばいいのか、何が言いたいのか、言ったら何が起こるのか。 彼は唇をぎりぎりと噛み締め、後ろ手に回した手でロッカーの中のバッグを取り、樺地の足元に無造作に投げる。 拾え、樺地 樺地はいつものように、何事もなかったかのように、返事をすると彼のバッグを手に取る。いつものように、なにごともなかったかのように、跡部はシャツの上からセーターを着て、上着を羽織ると、ロッカーを叩きつけるように閉めた。いつもと違うのは、樺地の手から自分のバッグを奪うようにもぎ取り、自分の肩にかけたこと。 ここ閉めて、鍵、預けに行ってこい そう言って跡部は部室を先に出る。後ろを振り返らないように、前ばかり見つめて歩く。 畜生 吐き出した言葉は、声が裏返って、他人の口から出たような幼い響きに苛立ちを覚える。 俺だって訳分かんねぇよ 跡部は丸めた拳で唇を塞ぐ。あふれてくる何かをそこで堰き止めるように。
☆シンコちゃん(@飲酒)の一冊目の本のゲストに書いたら郵便が間に合わなかったという事の顛末のあった話。そのままお蔵入りにして良かったかも・・・まだ一定していない樺跡観☆
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