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2006年01月17日(火) ■ |
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雪合戦のつづきです。 |
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導入部分はこちら。
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RyuKaに向けたのとは打って変わって険悪な表情でCAGEはHyuGaを睨み返した。 「いきなり何だよ、俺はただRyuKaちゃんに挨拶をしただけだろうが!」 「そうだよ、おにいちゃん。それに、CAGEさんって私と同じSKYLYだから、私達と一緒のチームになるんだよ?」 「俺をかばってくれるんだねRyuKaちゃん…! 性格のねじくれ曲がった兄貴と違って君はなんて心優しい…!」 「ちょ、ちょい待ち、『チーム』言うのは何のことや? お嬢、えぇと、この状況はワシにはどうも『野外パーティー』には見えませんのやけど…」 感激のあまりRyuKaに駆け寄ろうとして先程よりもふた回りはでかい雪玉をぶつけられ敵意もあらわにHyuGaと睨み合っているCAGEを押しのけて、KUROGANEはHARUKIに話しかけた。 厚く雪が降り積もる区画の方々に散らばってHARUKI達を眺めている顔はいずれも見知った者ばかり、参加者の顔ぶれだけを見渡せばこれは間違いなく『クリスマスパーティー』なのだが、その割には豪華な料理が用意されているテーブルもなく、クリスマスツリーの一つも見当たらない。 それどころか自分達が入って来る直前までの皆の様子を考え合わせるに、いや、もはや考え合わせるまでもなく、この区画で行われているのは…。 「えーと、そうだったね」 白い生マグを肩に乗せたHARUKIがCAGEとKUROGANEとを振り向く。 「ケージさんはSKYLY、クロさんはPURPLENUMだから二人とも私と同じ『偶数チーム』ということで」 「はい?」 「まぁ、だからこそわざわざ誘いに行ったワケだけど…」 「え、あの、だから何ですのん」 「雪合戦してるんだよー」 すでにある程度はっきりと嫌な予感を抱きつつもなおも困惑してみせるKUROGANEに、RyuKaが無邪気に説明してくれた。 「セクションIDが奇数のチームと偶数のチームに分かれて。いまちょっと私達の偶数チームが押され気味なの!」 「なるほど、そこで頼れる助っ人としてこの俺が起用されたって寸法ですね? 了解しました、HARUKIさん! あなたの期待にお応えするためならばこのCAGE、いかなる手段を用いても戦況を覆してみせましょう! RyuKaちゃん、俺が来たからにはもう安心だ! 君はそんな冷たい雪玉なんか作らずにどこかあたたかい場所でゆっくりと」 饒舌に語り始めるCAGEの顔面に本日三度目の雪玉が激突する。 「おにいちゃん! CAGEさんにぶつけちゃ駄目だってばー!」 「止めるなRyuKa! まずはアイツをお前から遠ざけんことにはあらゆる意味で安心出来んのだ!」 「…そ、それで…おおよそのルールはどうなってますのん?」 HARUKIが『野外パーティー』ということで自分達をここまで連れて来たことについては早くも追及することをあきらめたKUROGANEであった。先程一回平然と流されたからには、この後何度尋ねようともHARUKIからマトモな答えが返って来ることは望めないだろうし、もし仮にHARUKIが何か言い訳めいた台詞を口にして弁解するようなことが奇跡的に起きたとしても(それは彼女の性格を考慮すると本当に有り得ない事態だったが)今自分が置かれている状況を変えられるわけでもない。だったら一刻も早く現状を受け容れて−そう、CAGEのように−率先して楽しんでしまった方が良い。そのように判断したのだ。 「チーム分けがIDの奇数と偶数で…」 「へえ、それはさっき言ってた通りですな」 「より多く相手のチームの人数を…」 「人数を?」 「行動不能に出来た側の勝ち」 「…行動不能…ッ!?(衝撃)」 「ということで頑張ろうね! この一戦の勝敗で来年の運勢すらも決まってしまうのだと言わんばかりの勢いで!」 「えええッ!? こ、行動不能って、えらい基準が曖昧なんでっけど…! それにたかが雪合戦にしてはその条件がタダゴトではないっちゅうかもっと和やかな勝利条件を設定出来たハズなんやないかって言いたいっちゅうか…!」 「それじゃー再開ーッ!!」 大きな声で叫ぶと同時に、HARUKIは普段の彼女からは想像も出来ないような素早さで手近な物陰に身を翻した。 あまりのことに呆然と立ち尽くしその場に留まってしまったKUROGANEに早速容赦ない数の雪玉が降り注ぎ、ほんの一、二時間程前まで平和に喫茶店を営んでいた細身のRAcastはHARUKIが言った『行動不能』の意味を少しだけ体感したのだった。
HARUKIがCAGEとKUROGANEを連れて戻ったのとは別の区画。 こちらでも奇数チームと偶数チームに分かれての雪上戦が繰り広げられている。 木立の隙間を縫い雪の上を走り抜けて行く黒い影。POWマグたる紫色のヴァラーハを背負ったHUcastはHALKILEEKだ。真っ白な雪を蹴立てて開けた場所に出ようと全力で移動している様子だが、森は深く、加えて時折殺気を伴って前方に現れる気配がそれをさせない。目に見えぬ敵の存在を感知する度鋭いターンで進行方向を変更する。 相手が何も仕掛けて来ないのが不気味ではあったが、さりとてこちらから手を出す気にもなれず。とにかくもう一刻も早くHARUKIのいるところに引き返そうと決意しているHAL。
今彼を追跡し追い詰めようとしているのは04.だ。 HALのIDはVIRIDIA、04.のIDはREDRIA、本来ならば偶数ID同士同じチームに属しているはずの二人のHUcastであったが、偶数ID側の人数が多くなり過ぎたため、HiHuMiとy@kutoがcolon@にくっついて奇数チームに混ざったので、三姉弟を守るため04.も奇数チーム側の一員となったのである。
この追跡劇が始まる前、三姉弟が全員同じ奇数チームに分けられたことを失念していて誤って偶数IDのHiHuMiに雪玉をぶつけたJUNが、それを謝罪する間もなく銃弾のごとき勢いで飛来した雪玉に鳩尾を痛打されて一撃で沈められてしまったのを真正面で目撃してしまったHALである。 過半数の人間が私服で参加した中、一応ラグオル地表に降りるのだからとJUNは真面目にハンターズスーツを着込んで来ていたからまさか致命傷を負ってはいないだろうが(実に幸運なことだった)それにしたって容赦がなさ過ぎる。 その後HiHuMi達に見つかり雪玉を投げつけられ、けれどJUNに与えられた仕打ちを目の当たりにしてしまった以上こども達にマトモに反撃するのも恐ろしくて、HALはとりあえず一時撤退を選択した。そんな彼を何故か04.が追って来るのである。 一体何故自分が追われているのかさっぱりわからないところがさらに不気味だ。俺何かすると思われたんだろうか。
と言うか俺個人としてはもうさっさとHARUKIを家に連れて帰りたいんだけどな。この寒さ、生身の身体にはこたえるだろうし、普段好き嫌いばっかりで野菜も肉もマトモに食わないから一度風邪をひいたりするとHARUKIはものすごく治りが遅いのだ。高熱を出して臥せるHARUKIの姿など断じて見たくない。そりゃまあ、日がな一日布団にくるまって生マグ達にcast工学の専門雑誌のものすごく難解なコラムを読み聞かせてやっているのもどうかと思うけど、それは散歩程度の運動とかちょっと社会に関わるとかあわよくばハンターズとして2、3のクエストを真面目にこなすとか、そういったことを「ほどほどに」してもらいたいということであって、いきなりこんな積雪の中で大人数相手に激しい運動をしてほしかったというわけじゃなくて…。
ぶつぶつ考えていたらいきなり足元から地面の感覚が消えた。
「───なッ!?」
深く深く考え事に入り込んでいたため事態の急変に対応するための行動を咄嗟には起こせなかった。HALの身体はそのまま雪の下に掘られていた落とし穴の中に転げ落ちる。穴の底に叩きつけられる前に受身をとることだけは出来たので大したダメージは食らわなかったが、自分の身の上に何が起きたのかよくわからない。とにかく頭上を振り仰ぐと───。
「やったー! ハルキリお兄ちゃんつかまえたーッ♪」
明るい声と共に穴の縁からぴょこんと飛び出した顔が見下ろしてくる。 黄色くて長い髪。HiHuMiだ。すぐに青い髪のcolon@と赤い髪のy@kutoも顔を見せた。
「ありがと、ぜろふぉー! 頑張ってワナを準備しておいてよかった!」
y@kutoが笑顔で声をかける先にさっきまでの姿なき追跡者の姿があるのだろう。04.は声を持たないHUcastなので答える言葉は当然ない。
「ワナ…!? 罠とか駆使するんじゃない…! と言うか、この穴、異様に深過ぎないか!? お前達が掘ったのか!?」
穴に落ちたHALが爪先立ってみても縁に指先さえかからない程落とし穴は深かった。身長2mを越すHUcastが自力では脱出出来そうにないくらいの穴などこども達に掘れたとは思えないのだが…これも04.が用意してやったのだろうか?
「ううん、あたし達が掘ったんじゃないよ〜」 「拙者が頼まれて掘ったのでござる」
HiHuMiの隣から大柄なRAcastが顔を出した。HALと同じ色、黒と紫のカラーリングを施された、兄弟機(だとHARUKIが言っていた)のHALTOである。
「…いや…お前ID赤だから偶数チームだろ…?」 「左様、この仕事を依頼されたときはこども達は偶数チームに入るものと思っておったものでござるから」 「だったら俺が移動している間に行く手に落とし穴を掘っておいたことを知らせろよ…! 通信出来るだろうが!」 「無論、通信で兄上にトラップの所在を知らせることは容易でござったが…」 「………」 「拙者もその穴には兄上が落ちるのが一番面白いかと…」 「……面白い……!?(驚愕)」
HARUKIが自分の子供として面倒を見ている四体のアンドロイド(HAL、HALTO、HARUNA、Vessel)にはHARUKIの手によって四者間でのみ使用出来る特別な通信機能が取り付けられていた。これにより四人のアンドロイドは互いにどれだけの距離を隔てていても音声機能を用いずに意思の伝達をすることが出来るし、自分以外の三人の現在位置も逐次把握出来るようになっている。 そういった便利機能があるのだからHALTOには当然自分の兄が04.によって自分の掘った落とし穴へと一直線に追い立てられてゆくことはわかっていたハズだし事前にそれを警告することも本当にカンタンだったのだが…。
「……まあ、いい…とりあえずここから出してくれ……」
何だかいやなこと(HARUKIの自分に対する扱いと弟に対する扱いのものすごい格差等)をたくさん思い出してしまいそうになったのでHALはそれ以上の追及を打ち切った。今はあれこれ思い悩んでいるよりも穴から引き上げてもらう方が先決だと考えたのだが。
「ダメだよー、ハルキリにいちゃんまだ『コウドウフノウ』になってないんだもん!」
y@kutoがものすごくはっきりとした口調でそう言って、HiHuMiとcolon@が大きくうなずくのが見えた。
「ちょ、ちょっと待て、こんな穴の中に落ちたんだからもう十分行動不能になってると思うぞ!?」
急激に胸に広がり始めたとてつもなく嫌な予感を打ち消すべく反論してみるが、こども達にそれで納得する気配はなく。
「やっぱり、トドメはきっちり刺さなきゃ」 「な! おい、HiHuMi! トドメとかそういう」 「じゃあ、みんなで埋めようぜー!」 y@kutoが明るく言うと縁から覗いていた四人が穴の中に周囲の雪を落とし始めた。 「ま! 待て! 埋めるな! 何この展開!?」 「ハルキリお兄ちゃん、マヨワズジョウブツしてねー」 「迷うよ! とても成仏出来ないよ! おい、HALTO、お前何一緒になってせっせと雪落としてるんだ! こども達を止めて俺を助けろ!!」 「拙者も今ここで兄上が埋まってしまった方が面白いかと…」 「面白いかどうかでものごとを判断するな…! 俺は全然面白くないぞ! ああもうそんなこと言ってる間に膝まで埋まって来てる?! 埋め立てるペース速すぎだろ!? 何この作業効率! いやいやいやだから行動不能ってのはこんな完膚無きまでに動けなくしろってことじゃなくてー! ちくしょうもうすぐ腰まで埋まりそうだ! 何てことだ…!!」
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