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樋川春樹

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2005年07月13日(水)
書いてたとこまで公開します。その3

 以前『高台にて』というタイトルで公開していたものの再録です。
 エピソードとしてきちんと完結しております。
 そのうち読み物コーナーに戻すかも戻さないかも?

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 灰色の分厚い雲に覆われた空から、細い雨が地表に降り注ぐ。
 濡れた大地に、左肩から腰の部分までを斜めに斬り裂かれたゴブーマの死体が投げ出される。
 泥水が跳ね、真っ赤な血がじわりと広がってゆく。
 倒れこんで来た屍を避けて、片手にDBの剣を握った紫色のHUcastが駆ける。
 ブーマ達が一掃された直後に姿を見せたヒルデベアへと、距離を詰める。
 こちらに向き直り巨大な拳を振り上げようとしたその懐に躊躇なく飛び込む。
素早く持ち替えたムサシの斬撃を、がらあきになった腹部に叩き込む。
 …巨体が傾ぎ、先刻のゴブーマと同様に泥の中に崩れ落ちた。
 緩やかに広がる紅が、HUcastの足元を浸す。
 翠の刃の双刀を両手に提げたまま、彼はこの区画の入り口ゲートを振り返った。

「済んだぞ」

 数十体を数える凶暴化した原生動物の群れをたった一人で殲滅し終えた直後とは思えないほど平然とした声で呼びかけると、それまでゲートの向こう側で待機していた白服のHUmarがひょいと顔を出した。
「早いッスね…」
「所詮雑魚の群れだ。お前と一緒にするな」
 HUmarに冷たく言い捨て、HUcastは広場の片隅にあるワープ装置に向かって歩いて行く。
「きょ、今日もやっぱり、このマップでしたか…!」
 HUmarは何故だかとっても情けない表情で弱気な声をあげ、それでもHUcastの後を追って歩き出した。
「ああ。これで三日連続か、この地形は」
 何の感慨もない口調で応答する彼の見上げる先では、モネストが三体、モスマントに運ばれ高台へとゆっくり降下してゆくところである。
「の…呪われてる…俺、呪われてる…!」
「つべこべ言わずに行って来い。ここまで連れて来てやったんだ、今日も頑張って『特訓』してくることだな」
「うう…仕方ない、それじゃあ、行って来ます…!」
 HUmarは最近手に入れたばかりのハルベルトの柄をきつく握り直して気合を入れると、覚悟を決めてワープ装置に乗り込んだ。

 JUNがハード区画への立ち入りを許可されて、数日。
 HARUKIに言いつけられて、HALKILEEKは毎日ハード区画の森林エリアでJUNを鍛えてやっている。
 ノーマル区画のエネミーとは比較にならないくらい強化された原生動物に、しょっちゅう叩きのめされるJUNの姿は痛々しく、せめてもう少しレベルを上げ装備を充実させてから来た方が良いのではないかと考えたりしなくもないHALではあったが…これは、HARUKIの言いつけなのだ。
 敬愛してやまない(度を越していると評判)母親の命令である限り、HALはたとえJUNが頑強に拒んだとしても、ハード森まで襟首掴んで引きずって行ってブーマの群れの中に情け容赦なく蹴り込み強引にレベルを上げさせることだろう。
 JUN自身も強くなりたいと切に願っているためそのような真似はせずにすんだのは幸いであった。
 
 ところで、森林エリアへの降下を続けるHALとJUNの二人が見つけた絶好の経験値稼ぎポイントというのが、今JUNがワープ装置を使用して乗り込んだ「モネストが三体出現する高台の広場」なのである。
 モネストはその体内からモスマントと呼ばれる生物を無数に吐き出して外敵を攻撃させる。モスマントは数こそ多いものの、森に生息するエネミーの中では最弱のものだ。
囲まれてしまわないように注意を払ってこいつをたくさん倒せば、ブーマに張り倒されまくって本気で泣きそうになったりサベージウルフの群れに周囲をぐるぐる回られて獲物として狩られる恐怖を味わったり見た目は愛らしいラグ・ラッピーの一撃で地に這いつくばり自らの非力さを噛み締めることなしに、比較的安全に大量の経験値を稼ぎ出しレベルを上げることが出来る。
 …JUNにとってはモスマント一体でさえ軽く斬り捨てるというわけにはいかないのであるが。

 戦闘が始まると目の前の敵一体に集中してしまってレーダーマップを見なくなるきらいのあるJUNの為に、待機しているHALが適切な指示を与えて彼が囲まれないようにしてやる。
 それでも時折背中をとられてしまうらしく、モスマントの攻撃をマトモに食らってJUNが死にかけることも何度かある。
 当然本当に危なくなれば助けに入るつもりだが、とりあえずメイトがある限りは彼一人に戦わせなければためにはならないと、じっと見守るHALである。
 こんなとき回復テクニックのレスタが使えれば、ワープ装置がある位置からでも体力を回復してやることが出来るのだが…と言うか、何故HARUKIがJUNを鍛えてやらないのか…? FOmarlなら回復だけでなく補助テクニックもかけてやれるのに…だが、HARUKI自らがJUNのレベル上げを手伝う等と言い出したらそれはそれでやっぱりHALとしてはものすごく面白くないので、内心は自分が護衛役をすることになって安堵していたり、JUNの世話役を任せるってことはやっぱり俺って頼りにされてるのかな? なんて幸せなことを思ったりもしている。
 彼には気の毒だが実際のところはHARUKIがJUNの面倒を見ないのは純粋にダルかったからで、HALにJUNのお守りをさせているのはもちろん彼がHARUKIにとって最も便利に扱える人物であるからというただそれだけの理由に過ぎない。…本当に気の毒なのだが。

 …JUNが最後のモスマントをナイフの刃ではたき落としたのは、高台に足を踏み入れてからたっぷり一時間後のことであった。
 今回は特に大量のモスマントを吐くモネストばかりに当たってしまったらしい。
 手持ちのメイトもほぼ底を尽いている。
モネスト本体を倒してしまいたくなったりHALに助けを求めたくなったりという誘惑を必死にはねのけながら戦い続けていた彼の精神力も限界に達しようかという頃だった。
目の前にいるモネストがしんと静まり返り、もはや一匹のモスマントも吐き出して来なくなったのをきちんと確認してから、JUNは安堵と疲労のあまりその場にへたり込んだ。
「は、ハルキリさ〜ん…終わりましたぁ…」
 ぐったりとした気分で呼びかける。
 すぐにHALが上がって来た。
「今日は長かったな…」
「もう、死ぬかと思いました…」
「少し休んでいろ。残りを片付けて来る」
 ガルダ・バル島探索が始まって以来お気に入りの武器となったらしい双刀でモネスト達をあっさり葬り去ると、HALは単身先の区画へと進んで行った。

 数分後、まだ休みたいと訴える身体に無理矢理活を入れなおし、JUNはその後を追った。
 ドーム地下への大型転送装置前にHALが立っていた。
 装置が作動しているところを見ると既にこの周辺にいたエネミーは全て始末されたようだ。
 ドーム地下には『ドラゴン』と呼ばれる大型のモンスターがいる。そいつを倒せば、このエリアのエネミーを全滅させたことになる。
「かなりへばっているようだな?」
「ま、まだまだですよ!」
 HALの台詞を弾かれたような勢いと大声で否定し、JUNは無理に背筋をしゃきっと伸ばした。
 それが真実でも、弱音を吐くわけにはいかないのだ。
 己の未熟さを克服するにはひたすら修行あるのみ。
 ただがむしゃらに無茶をすればいいと思っているわけでは、決してないが…。
「そうか。だがもう少し休め」
 静かな声であっさりとそう言うと、HALはJUNの返事を待たずに高台の縁へと歩み寄った。
細かな雨に濡れる森林の眺めを楽しんでいる、という風には見えない。何事か考え込んでいるようである。
 沈黙が落ちた。
 それまで全然気にならなかった雨音が急に耳につき始める。
 JUNは思い切ってHALに歩み寄った。
「ハルキリさん」
「…何だ?」
「毎日、付き合ってもらっちゃって…すいません」
「いきなり改まってどうした」
「俺、早く一人でレベル上げられるようにならないと、いけないですよね…レベル上げだけでなく…普段から、HARUKIさんとか、HALさんとかに、お世話になりっぱなしで…それじゃ、ちょっと、情けないですよね」
 足元に視線を落とす。
「…もっとしっかり、しないと…」
 自分に言い聞かせるように呟く。
「お前がしっかりしたいと思うのは勝手だが…他人の世話になって生きることを情けないとは、俺は思わない」
 少しの間を置いて、ゆっくりと響く低い声が答えた。
「むしろ、自分が大勢の人間に助けられて生きているということを自覚出来ない方が情けないと思うが」
「…! 俺、そんなつもりじゃ…もちろん、皆さんには感謝してます…!」
「わかっている。あくまで比較として挙げただけだ。…JUN、人は一人では生きられない、弱い存在だ。だからこそ…己のその弱さを見つめ認められる者こそが…他人の助力を素直に受け入れ、感謝出来る人間こそが本当に強いのだと、そうは思わないか?」
 咄嗟には返す言葉が浮かばずに、HALの顔を見返す。
「自然にそうすることの出来る人間のまわりにはたくさんの仲間が集まるだろう。人は一人では生きられない…だからこそ謙虚な心を忘れずに、出会った人間とのつながりを大切にしていかなければならん。話が少しずれたかもしれないな。自分自身が強くなりたい、という志を持つことは大事だ。その意志なしには向上は有り得ない。だが、その為には…甘やかしではない他人の協力もまた、不可欠だということだ。…助けられていることを申し訳なく思う必要も、そのことで自分を責めたり無理に追い立てたりする必要も、ない。周囲の援助を受けるのは当然のことだ」
 一息に言い終える。
それから、少しばかり喋り過ぎてしまったのを恥じるかのようにHALは視線を逸らした。
「…、ハルキリさんがそういう考え方をなさってたなんて、ちょっと意外でした…」
 彼の横顔を見上げながら、JUNは正直な感想を口にする。
「あ、悪い意味じゃないです。だって、その…ハルキリさんは強くて…俺もそんな風になりたいと思って…どんなとこででも、独りで戦えるぐらい強くなりたいと思ってて…その、だけど、正直言って、ハルキリさんの考え方、いいな、と思います。うまく言えないんスけど…」
「俺が考え出した訳ではない。…HARUKIの受け売りだ」
「ええッ?! …あっ」
 JUNは自らがあげてしまった驚きの声の大きさに自分でビックリして慌てて口を塞いだ。
 自分が単独では生きられない弱い存在であることを受け容れ、だからこそ助けてくれる周囲とのつながりを大事にしなければならない。
 …その考え方が、HARUKIさんの受け売り?
 あの、超がつくほどのマイペースで、ときとして非常識なまでに自己中心的で、他人がどう考えているかなんてことには露ほどの関心も持っていなさそうな、HARUKIさんの受け売り…?!
「…そこまで驚くか…」
 HALが呆れたように言って、ため息をつく。
「あ…い、いえ、決して悪意は…その…」
 しどろもどろに弁解しようとするJUNの台詞を片手で遮る。
「まぁ、俺が言うのも何だが、わからなくもない…俺だって最初に聞かされたときは意外だった」
「で…す、よね」
「しかし今でもHARUKIがその考えを捨てていないことは確かなようだ。…理解はされないだろうが…」
「は…はぁ…」
「だからこそ、俺もそれを受け入れることにした。自らの思考パターンの根本にそれを置くことにした。自分が本当は、他の助け無しには存在出来ない弱いものであるという、認識を」
HALの台詞に耳を傾けながらも…HARUKIが今でもそう思っている、とは、やはりにわかには信じられないJUNである。
HARUKIは誰も必要としていないのだと思っていたから。彼女は誰の助けも必要とせず、自分一人で生きていくことに何の不都合も感じていない、感じない人間なのだと、ずっとそう考えてきたぐらいだったから…。
「…もう十分休めたようだな? そろそろ行くぞ」
 そのまま深く考え込んでしまいそうになったJUNは、HALの声ではっと気を取り直す。
「メイトもなくなりかけていたようだったな…俺のものを持って行け」
「あ…す、スイマセン。ハルキリさんは大丈夫なんですか?」
「…俺は必要ない」
「ですよね…ありがとうございます!」
 受け取ったメイト類をアイテムパックの中に収める。
 それから、ドラゴン戦に備えナイフをオートガンに持ち替える。
「準備OKです!」
「うむ」
 一つ頷くと、HALは大型転送装置へと一歩足を踏み入れた。
 JUNもすかさずそれに続く。
 …直後。
 装置が作動する一瞬、HALが身を引いた。
「!!」
 転送される直前。
 HALは短く、はっきりと、告げる。
「強くなれよ、JUN」
「………!!」
…気の利いた台詞の一つも返せぬまま、JUNは単身ドーム地下の空洞の中―――ドラゴンの目の前に、放り出された……。

 …今度こそ死ぬむしろ死んでやると思いながらもJUNがどうにかこうにかドラゴンを撃破したのは、それからたっぷり一時間半後のことであった。

 よれよれになってテレポーターから帰還したJUNは、メディカルセンターのすごく真ん前で待っているHALの姿を見つけた。
「ハルキリさん〜ッ!! 何で俺を一人で送り込むんですかああッ!! 鬼!! 悪魔!! マザコンッ!!」
「…!(衝撃) 最後のだけは取り消せ!! お前のためを思ってのことなんだぞ!」
「何もボス戦で突き放すことないじゃないですかあっ!! HARUKIさんに言いつけてやる!!」
「無駄だ…あれはHARUKIの言い出したことだ…」
「…!!」
「むしろ、最初HARUKIはハード区画のデ・ロル・レ戦で置き去りにして来いと言ってたのを俺が説得してドラゴン戦に変更させたのだぞ…?」
「でろるれ…!?」
「まぁ、そうやってハンターズは強くなっていくということだな…」
 遠い目で語るHAL。
 多分そんな風には強くならないだろう。
「はっ…モネスト特訓も、まさか…?」
「…最初HARUKIは…ノーマルDF第一段階ダーバント戦で鍛えて来いと言ってたな…」
「だーばんと…!!」
「モネストと違ってDFは攻撃して来るからなぁ…アレはつらいとやはり説得したんだ…」
「ハルキリさん、まさか…」
「…VHでやったっけな、ダーバント特訓…ふふ…苦労するわりには効率の恐ろしく悪い…レベルなんかちっとも上がりやしねぇ…」
「ハルキリさん?! ハルキリさん…!! しっかりして下さい!!」
「しかしそれがHARUKIの言いつけであるからには…HARUKIが俺を強くするためにと考案した経験値稼ぎ法であるからには…!! 俺に選択肢などないのだ…ッ!! 三時間でも四時間でもダーバントを狩り続けるしか…!!」
「ハルキリさん…!! お気を! お気を確かに…!!」

 …そんな二人のハンターズを人々が怪訝そうに避けて通ってゆく。
 ラグオルに着陸出来なくとも、とりあえず彼らの周囲ではパイオニア2は今日も平和、なのであった。

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