不思議なことに、前夜あんだけ飲み喰いしたのに、朝には空腹であった。 肉や、油ものを喰わなければ、こんなに胃の調子が良いのか。 日本人なんだなぁ。
朝飯の時間まで、テレビでも、と思っていると、仲居さんがやってきた。
「おはようございますー」
「あー、おはようございます」
と、返事をすると、襖が開いた。
…………おい。 なんで開くんだ。
「もうすぐ朝御飯が出来ますので、お呼びしますね」
と、告げて、仲居さんは去って行った。
ランディはまだ寝ている。
こんなんでも、一応鍵はかけたのだが、ランディが夜中トイレにでも行って、掛け忘れたのだろうか? まともな鍵が無い部屋で寝るのをかなり嫌がっていたから、それは余りあり得ないのだが…… とりあえず、もう一度鍵を掛け直し、浴衣の上に羽織着て、茶なんぞ飲みつつ、テレビを見る。
ほどなく、仲居さんがやってきた。
「失礼いたしますー。朝御飯の支度が出来ました」
ちょっと待て、また開いたぞ、おい。なにごともなく、すーっと。 開く瞬間はまたしても見逃したが、確かに鍵は掛けていた。 半ば呆然としつつ、
「……はい。すぐ行きます」
と応え、仲居さんが去った後、もう一度鍵を掛けた状態にしてみる。 そのままで、襖を引くと、丁度、指一本分、隙間が出来る。 そこに、人差し指を入れると、外からでも、鍵が外れた。 予想は、ついていた。 開いてしまうんだろう。 だけど、だからと言って
何故開ける!?
形ばかりのもので、外せるもので、外し方を熟知しているんだろうが、なんで外すんだ!
前日、風呂に入ったときと同様、財布と貴重品をバッグに入れて、それを持って指定された部屋へ。 宴会場や、食堂のような部屋に通されるかと思ったら、わたしたちが泊まった部屋より僅かに広い程度の部屋に、わたしとランディふたりである。 もう一組いた泊り客は、先に食べたらしく、チェックアウトの手続きをしているらしい声が襖越しに聞こえる。
朝食は、ごく普通。 不味くもなく、美味しくもない。 鯵の干物の焼いたのが冷たかった。 もう一組の客の分と一緒に調理したんだな、これは。
寛ぐ気になれず、着替えて市内観光に出掛けた。 特別に名物でもないと記憶しているが、ふらりと入った蕎麦屋の天麩羅蕎麦は美味。 タクシーで、日帰りで利用出来る温泉に行く。 帰りはタクシーを使わず、土産物店を中心に散策。 夕食は、寿司。 看板に、『○○テレビで美味しい寿司屋として紹介』とあった店に入る。
美味!!
看板に偽り無し。 しかも、安い。回転寿司とさほど変わらない値段ではないか。 もう、なんというか、これを味わうために、遥々この地までやってきたのだ、という気がした。 食い物で感動するなんて久しぶりである。 途中、込み合って来たので、早々に店を出たが、殆ど飲んでいないのに、酔ったような幸福感がつづいた。
宿に戻って布団に入り、時計を見たら、まだ十時前だったが、ランディもわたしもすぐに熟睡。 無論、前夜同様、襖の前にはタオルハンガーを置いた。
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