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書くほどのこともない日常
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2003年08月03日(日) 恐怖体験

夏に限らず、怖い話は好きである。
血や内臓が飛び散るような、力技で話で目を背けさせる話では無く、人の業を感じさせる話が良い。
四谷怪談なんか、凄く怖いと思う。

未だに、舞台やテレビで四谷怪談をやるときには、お岩さんにお参りを欠かさないという。

そりゃー、女から、美貌と、夫の愛と、子供を奪ったら、何百年だって祟ろうというもの。

怪談は虚構として怖い。
眠れないほどの怖さを楽しむものである。

「生きている人間ほど怖ろしいものは無い」とは、よく言われることである。
確かに、生きてる人間の怖さは、目を瞑ってシャンプーするときに背後が気になることは無いが、性質が良くない。

たとえば。


わたしは、以前、とある通販会社の商品発送部門に勤めていた。
扱っている商品は、所謂「縁起もの」で、通常、一生に一度しか買わないものであるので、ケースに髪の毛一筋ほどの傷がついていても、顧客から苦情が来たものである。

ある日、社長が、作業倉庫に駆け込んで来た。

「今、お客さんから苦情が来た」

Nという先輩とふたりの部署で、ミスをする割合は、わたしの方が高かったので、なんかやっちゃったか、と思わず緊張した。

「箱に、『K死ね』と書いてあったそうだ」

Kとは、女性上司の名前である。
思わず、ぶっ飛びそうになった。
わたしじゃない。絶対わたしじゃない。
決して好きな上司じゃない、というか、寧ろ積極的に嫌いであったが、そこまでじゃない。

「君たちふたりのうちのどちらかだ」

と、社長は現物を出した。
商品を取り出した後、紙の化粧箱を潰して捨てようとしたらしい。
内側に、確かにくっきりと『K死ね』とある。
わたしの筆跡じゃない。
と、いうことは……先輩か。
しかし、万が一、先輩が、違うと言い張った場合、わたしのせいになるのだろうか。
そうだろうなぁ、この先輩、お父さんがこの会社の取引先っていうコネで入ったんだもんなぁ。
でも違うぞ。
証拠も探せばあるはずだ。
と、めまぐるしく考える。

が、先輩は、潔かった。

「はい。わたしです」

……わたしで無いのだから、この人しかいないのは確かだが、やはり驚いた。

「何故だ!?」

と、恐らく、わたしの仕業だと思っていたらしい社長が怒鳴った。

「何処から話せばいいのか……」

と、先輩は、今までは、わたしに対して愚痴っていたことを社長に向かって話しはじめた。

K部長が自分を無視し、挨拶さえしないこと、ミスにもならないような細かいミスを指摘し、何度も何度もやり直しをさせること、口に出して非難めいたことは言わないが、嘲笑うかのような表情を浮かべること……
被害妄想と思われても仕方無いようなことばかりだが、それゆえに、余計に陰湿で堪えるいじめだったのは、一緒に仕事していれば判った。

「あの子は、そんな子じゃない。確かに、明朗快活なタイプでは無いが……」

と、社長が庇う。
(余談だが、K部長が社長と愛人関係にあるというのは、社内の公然の秘密だった)

その後、先輩は社長に不満をぶちまけ、営業担当者は、顧客の怒りをなんとか収めることが出来たらしい。
翌日、会社に行くと、社長が「今晩、女子社員全員で、懇親会を開くように。経費で落とすから強制参加」と行って来た。

げっ。

女子社員全員って、三人しかいないじゃないか。
わたしは関係ないじゃないか。
このふたりの間に挟まれろというのか。
社長命令では是非に及ばず、その日は三人で飲み会。

なにが怖いって、わたしと和やかに雑談しつつ、商品を箱詰めしながら、『死ね』とか書いてた先輩。
少なくとも片方は、『死ね』とまで念じるほどの憎悪を抱き、それが露見するに至っているというのに、「総てはコミュニケーション不足のせい」と言い、月に一度の飲み会で関係を改善せよという社長。
そして、焼肉食いながら、総て無かったことのように歓談するK部長とN先輩。

あれほど不味い焼肉を、わたしは未だ知らない。
我が人生で今後、あれ以上不味い焼肉を食べることがないことを心から願ってやまない。


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