雨音かと思ったら、水気の多い雪の音だった。
なんとなく、眠れなくなったので深夜に起き出して、パソコンを立ち上げ、エアコンのスイッチを入れた。 なかなか部屋は暖まらない。 朝飯用にスコーン焼いてるうちに、夜が明けた。 焼きたてスコーンと、コーンスープとチャイで朝飯を食べて、ランディは出かけた。
外は白く染まっていて、まだ雪が降っている。
普段、出不精のツケが回ってきていて、こんな日なのに、どうしても出掛けなければならない。 一晩中、一睡もしてないので、少し仮眠を取ってから、ぼーっとした頭で玄関を一歩出ると、冷たい空気で眠気が飛んだ。 そして、まだ景色は白い。 階段を降り、一階のポストの中を確認しようとすると、視界の隅でなにかが動いた。
頭の中で、警報が鳴っている。 振り返ってはいけない。見てはいけない。 猫を飼ったことのある人には、殆ど搭載されている猫センサーが、わたしにも取り付けられているのである。 しかし、わたしは振り返ってしまった。
キジトラの子猫が、隅っこで、丸くなっていた。
うわぁ! 何故いるんだ。何故こんなところに。
み、見るな。こっちを見るんじゃない。 か細い声で鳴くな! わたしの動きを目で追うなーーーーーー!
こら、わたし! おまえも見るな。無視するんだ。あれは置物と思うのだ。 座り込んで手を伸ばすんじゃない。 此処は、ペット禁止の集合住宅だ! 仔猫!おまえも無警戒に掌に顔をすりすりするな!
こんな雪の降る日じゃなきゃ、見なかったことにもできるものを! 飼うんじゃない、保護だ、保護!一時保護! 飼い主を見つけるまで、客として迎え入れるだけじゃ。 抱き上げて、コートの中に隠して今降りてきた階段を昇ろうとしたとき、後ろから、別の鳴き声が聞こえた。
仔猫を拡大コピーしたような親猫がいた。
捨て猫じゃなくて、近所の飼い猫の親子のお散歩か。 道理で人懐こいと思った。 よく見れば、仔猫はよく太っていて、なにか食べた直後らしく、腹もぱんぱんである。
……そうか。
親猫は、警戒して隠れてしまった。 余り触って人間の臭いをつけると親に連れて帰ってもらえないかもしれないので後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。
帰りがけ、スーパーに寄り、猫缶を一個買ってしまったが……ポストの前には、親猫も仔猫もいなかった。
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