いつだったか、高原のペンションに行った時の空模様は雨だった。 星空を期待していた私はがっかりして早々にベッドにもぐりこんだ。
ふと、夜中に目が覚めて窓の方を見るとぼんやりと月明かりが差し込んでいた。 雨が上がったのかなと窓辺に近づくと、光はさっと翳った。 そっと窓を開けると湿った少し冷たい風が入り込んできた。 見上げると、青暗い空を白い雲がものすごい勢いで飛んでいくのが見えた。
その雲が途切れ、次の雲が流れてくるまでの間に見える月が まるで太陽の光を真似るように輝いていた。 『いい月だなあ』と思うも間もなく雲がそれを隠す。
雲の流れは音を立てているようだった。 実際、ペンションの前の木立は強い風に吹かれざわざわと騒がしかった。 白い雲は風に乗りながら何度も何度も月を隠すけれど、 ゆったりと時に乗った月は動じることなく輝いていた。
なんでもないことなのに、何だかほっとした夜。 またそんな夜に会えそうな、秋が近づいている。
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