エアロスミス。嫌いだった。
当時、某楽器屋に入りたての頃、朝っぱらから先輩(といっても、年下の男の子だった)が「PUMP」をブチかけていたのだ。向かいの洋服屋から苦情がくるくらい。しかし、ほとんど毎日といってよいほど、「PUMP」で、某楽器屋は店を開けていた。
新人の私が、かってにCDをかえられる筈もなく(彼はバンドマンで、なんとなく怖かったの。特に朝は不機嫌だった)朝からデーモンオブスクリーミンの攻撃に、ただただ耐えていた。このうるっさいバンドは何?低血圧の私の神経を逆なでするヤツは誰?
エアロスミス。大嫌い!
彼が休みの日と、彼がお昼の休憩に上がるのを、心待ちにしていた。女の店員さんが、普通の「販促用」サンプル盤にかえてくれるからだ。
それから数日たった、ある日のことだった。 CDの入荷作業の無い日に、彼が休みをとった朝、店長と二人で店を開けることになった。 「なんか好きなCD、かけて良いよ」 と言われて、迷った挙句、 「PUMP」を選んだ。 パブロフの犬のように、これをかけないと、店内の朝の掃除もはかどらないのだ。 朝という気分が出るのが、このアルバム・・に、なってしまっていたのだ、生理的に。
「・・わ、エアロかけちょるけ〜」 なんとなく心配だったのか、彼が、店に顔を出した。 「本当、好きやね〜!俺も好きやけど、朝から聞きよったら、時々ムカついてくるよ、スティーブンの声」 彼は彼で、私が「ウルサイ」と言わないので、エアロ好きと思い込んでいたのだ。
後ろ手に、グっと拳を固めたのは言うまでも無い。
おかげで、本当にエアロ好きになってしまった。 今も、目覚めのCDはエアロスミス。
時々、ムカつきながら起きている。
その後、彼が辞めるまで、さまざまなバンドを脳髄に「すり込み」されたが、それはまた後ほど。
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