東行庵の軒下で

2001年12月26日(水) その拾壱

なんだか、温かい香りがします。

暗かった世界に、淡い光が差し込みました。茶色の、木目が見えます。

だんだんと、天井の梁がはっきりと見えてきました。彼は、ゆっくりと起き上がりました。とたんに、毛布の柔らかい感じがしました。

「気がついたかね?」
声のするほうを向くと、そこには、白髪の髪に、ふっくらした体つきのお爺さんが椅子に腰掛けていました。テーブルの上には、湯気の出ているカップがひとつと、お爺さんが今までかけていた、金の丸いふちの眼鏡があります。

「おや、気が付いたのですね」
と、今度は隣の部屋から、おばあさんがやってきました。手には湯気の出ているカップがあります。彼女は良かった、良かった、といいながら、彼のもとへ近づいてきました。

差し出されたカップには、ココア(といっても、彼は知りませんが)が注がれていました。
「ボクに?」
彼女はうなづいて、微笑みました。
「体の力が湧いてくるわよ」
彼は、人間を信じてこの飲み物を飲みました。甘くて温かくて、後で少し苦い感じがしました。
「おいしい?」
彼は、うなづきました。そして、自分が初めて「美味しい」という感覚を持ったことに気付きました。
「甘いもの、苦いもの。反対なのに、ひとつになってるんだ。美味しい」
自分でつぶやいた言葉に彼はドキッとしました。

「天使さん、私たちのどちらを連れて行くつもりだったの?」
おばあさんは尋ねました。
「え?」
「二人一緒じゃ、だめかしら?」
おばあさんは、お爺さんの横に立って、彼を見つめて言いました。
「ちゃんと天国でやっていけるのかしら?って、心配なの」
「わしは大丈夫だ!おまえこそ、天国で右も左も分からんで、オロオロするんじゃないかと心配だ」
二人の会話を聞いていた彼は、可笑しくなって笑いました。
「ボクは、迎えに来たわけではないよ。このとうり、羽は青くて、髪は緑。天使じゃないんだ。ボクがこうなったわけを探して、地球に降りたんだ」
彼は青い翼を広げました。
二人は、顔を見合わせました。


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