なんだか、温かい香りがします。
暗かった世界に、淡い光が差し込みました。茶色の、木目が見えます。
だんだんと、天井の梁がはっきりと見えてきました。彼は、ゆっくりと起き上がりました。とたんに、毛布の柔らかい感じがしました。
「気がついたかね?」 声のするほうを向くと、そこには、白髪の髪に、ふっくらした体つきのお爺さんが椅子に腰掛けていました。テーブルの上には、湯気の出ているカップがひとつと、お爺さんが今までかけていた、金の丸いふちの眼鏡があります。
「おや、気が付いたのですね」 と、今度は隣の部屋から、おばあさんがやってきました。手には湯気の出ているカップがあります。彼女は良かった、良かった、といいながら、彼のもとへ近づいてきました。
差し出されたカップには、ココア(といっても、彼は知りませんが)が注がれていました。 「ボクに?」 彼女はうなづいて、微笑みました。 「体の力が湧いてくるわよ」 彼は、人間を信じてこの飲み物を飲みました。甘くて温かくて、後で少し苦い感じがしました。 「おいしい?」 彼は、うなづきました。そして、自分が初めて「美味しい」という感覚を持ったことに気付きました。 「甘いもの、苦いもの。反対なのに、ひとつになってるんだ。美味しい」 自分でつぶやいた言葉に彼はドキッとしました。
「天使さん、私たちのどちらを連れて行くつもりだったの?」 おばあさんは尋ねました。 「え?」 「二人一緒じゃ、だめかしら?」 おばあさんは、お爺さんの横に立って、彼を見つめて言いました。 「ちゃんと天国でやっていけるのかしら?って、心配なの」 「わしは大丈夫だ!おまえこそ、天国で右も左も分からんで、オロオロするんじゃないかと心配だ」 二人の会話を聞いていた彼は、可笑しくなって笑いました。 「ボクは、迎えに来たわけではないよ。このとうり、羽は青くて、髪は緑。天使じゃないんだ。ボクがこうなったわけを探して、地球に降りたんだ」 彼は青い翼を広げました。 二人は、顔を見合わせました。
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