「それは、涙というものだ」 彼が、びっくりして顔をあげると、闇のような黒い大きな翼と、三日月のような銀色の長い角を2本持ったアクマが、じっとこちらを見ています。 魔界に行ったときに、出会ったアクマよりずっと大きく、そして、天使に負けないくらい不思議な香りがします。
ハッと、我にかえった彼は、右手の小指にはめてあるエンジェルリングをはずそうとしました。 「まて」 と、アクマは低い声で止めました。 「お前のリングの光など、恐れはしない。エデンの香りをもたらす者、なぜ涙を流しているのだ?泣いているのだ?・・」 アクマは少し声色を和らげて、彼に尋ねました。
彼は下を向いて、足元の砂を見つめました。 「失望・・がっかりしたのであろう?ニンゲンに」 彼の心の一部が、アクマのコトバと共に、消えていくのを感じました。 アクマは続けてこういいました。 「美しい星に住む、このニンゲンが、お前の翼を、髪を、目を黒く変えてしまうのだ。そして、黒の天使となったお前は、ニンゲンをすべて屠ってしまう」 彼は驚いて立ち上がり 「ボクは、天使だ!ヒトを殺したりするもんか!!」と、叫びました。 それでも、アクマは静かに続けます。 「それが、神の意思であってもか?」 「そんなこと!だってだって、神様が、・・・」 神様が、その後の言葉が続きません。ノドの奥で、スゥ〜っと消えてしまったのです。
ニンゲンに起こる災い、病気。それはすべて目の前に立っているアクマがもたらすものだろうか・・本当に・・・
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