東行庵の軒下で

2001年12月24日(月) その九

「それは、涙というものだ」
彼が、びっくりして顔をあげると、闇のような黒い大きな翼と、三日月のような銀色の長い角を2本持ったアクマが、じっとこちらを見ています。
 魔界に行ったときに、出会ったアクマよりずっと大きく、そして、天使に負けないくらい不思議な香りがします。

 
ハッと、我にかえった彼は、右手の小指にはめてあるエンジェルリングをはずそうとしました。
「まて」
と、アクマは低い声で止めました。
「お前のリングの光など、恐れはしない。エデンの香りをもたらす者、なぜ涙を流しているのだ?泣いているのだ?・・」
アクマは少し声色を和らげて、彼に尋ねました。


彼は下を向いて、足元の砂を見つめました。
「失望・・がっかりしたのであろう?ニンゲンに」
彼の心の一部が、アクマのコトバと共に、消えていくのを感じました。
アクマは続けてこういいました。
「美しい星に住む、このニンゲンが、お前の翼を、髪を、目を黒く変えてしまうのだ。そして、黒の天使となったお前は、ニンゲンをすべて屠ってしまう」
彼は驚いて立ち上がり
「ボクは、天使だ!ヒトを殺したりするもんか!!」と、叫びました。
それでも、アクマは静かに続けます。
「それが、神の意思であってもか?」
「そんなこと!だってだって、神様が、・・・」
神様が、その後の言葉が続きません。ノドの奥で、スゥ〜っと消えてしまったのです。


ニンゲンに起こる災い、病気。それはすべて目の前に立っているアクマがもたらすものだろうか・・本当に・・・


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