彼は空に浮かんだまま 「泣いているあなたは誰なの?」 と、塔に向かって声をかけました。 すると、 (ワタシは、この国の王) と、声がしました。その声は、少しこもっていて、まるで塔全体から声がもれている・・そんな感じでした。
彼はドキドキしながら、金色の塔のすぐそばまで近づきました。 ひび割れから、黄金が少しずつ流れ出ています。 「王様?・・なの??」 彼は、そこで初めて城のほかに[街]があるのを見ました。すべて、この塔から流れ出た黄金に、覆われているので、ヒトが住んでいるはずはないのですが。
(この島にだって、緑や、小川や、花や、動物が生きていました。・・・・もちろんヒトも) 金を川に流しても、絶え間なく生み出される黄金。貧富の差の無い国で、平和な暮らしを続けていける・・・そう思っていたのです。
侵略者が来るまでは。
島を焼き払い、殺戮の上に新しい国を造ろうとした彼ら侵略者たちは、王を塔に閉じ込め、黄金を生み出すことだけを命じたのです。
(わたしは、命と引き換えに黄金を生み出し、流れ出た黄金で侵略者を押しつぶし、殺してしまった。ここは、この世で一番美しい、墓場になってしまったのです。この島は、ヒトの目にどう映るかは知りませんが、・・・私にとっては、・・自分の憎悪の産物でしかない・・) 青い翼を広げてじっと聞いていた彼は、なんだか胸の辺りがぐっと苦しくなった気がしました。
(・・あなたの・・羽や、髪は・・優しい色・・懐かしい色・・帰りたい・・) 王様の声は、それきり聞こえません。 彼はいたたまれなくなって、翼を強く羽ばたかせ、黄金の島から離れました。
砂浜に降り立った彼が、後ろを振り返っても、そこにはあの穏やかな海と、青い光があるだけでした。
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