月にやってきました。
砂の海に、銀色の翼を持った鯨が横たわっています。
かれは、はたはたと翼を動かして、鯨に近づきました。 地球のまわりを泳いでいる鯨と、同じ鯨です。 天使たちが、地球へ降りようとするときに、時々ぶつかりそうになる、ちょっとだけ厄介な鯨です。
でも、もう、この鯨が、宇宙の海を泳ぐことは無いでしょう。
造り主のニンゲンに見放されてしまった今、自分で動けない鯨は、悠久の時間を独りぼっちで過ごすのです。
彼は、辺りを見回しました。 動いているのは、彼ひとりです。地平線のかなたは、漆黒の闇に食べられてしまったかのようです。
しばらくして、彼の青い羽が、鯨の翼の上を横切っていきました。
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