あの日の思い出は、どうしてこんなに悲しいんだろう。
二人で大きな浮き輪につかまって、丸い海の底を覗き込んだ。 自分達の足の指が、ユラユラと見えて、すごく遠くにある気がした。 二人で覗き込んだ、浮き輪のなかの青いうみ。 これは地球の7割を占める広大な海の、一部分。 この時間は、二人がそれぞれ暮らしている日常の中の、ほんの一部分。 一瞬だけ手に入れることが出来る、そんな一部分。
互いの顔を見合わせたとき、確かに幸せなのに、泣きそうになって、笑顔と泣き顔がまざった、変な表情になってしまった。
やがて、それぞれの日常に戻らなければならなかったから。
あれから、時間は流れているのに、時間を流したはずなのに。 取り残された風景は、時間も一緒に海に貼り付けているみたい。
その風景を消してしまえる人は、いるんだろうか。
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