2012年09月12日(水) |
アール・エドレッドの場合(仮)・14 |
「ここに、何のようがあるんだ?」 「知りあいが眠ってるんだ」 そう言って笑った青年のおもざしは、アールが今まで見た中で一番さみしそうで。 「とても古くて、とても大切な人が」 「それって――」 (リーシェ、あれ!) アールと人ではない者の声が重なる。 (「おお。そなたは以前の興ごとにつきあってくれた少女だな」) 上から下まで白ずくめの可憐な少女。二人には見覚えがあった。あれはいつの日だったか。劇場で夜な夜なむせびなく少女の幽霊騒ぎがあった日のことだった。なかば成り行きで除霊を行うことになった幽霊の少女。その彼女が二人の目前にいる。 (「今度はあやつを道案内してくれたのか。霊を言う。こやつの相手はさぞ骨がおれただろう」) 「なんて言ってるんだ?」 「彼は幽霊なのですか?」 (「違う。だが人間でもない」) 「それは一体――」 (「今はそっとしておいてくれ。あやつにとっては久方の逢瀬だからな」) そう言ってふわりと姿を消す。後に残ったのは墓の前にたたずむ男のみ。 「ありがとう。おかげで助かったよ」 水色の袋からさらに小さな包みをとりだすと二人に手渡す。本当はもっとちゃんとしたお礼ができればよかったんだけど。申し訳なさそうにつぶやく青年にリーシェは首を横にふった。 深々と頭をさげると青年は笛を手に霊園の奥深くに姿を消す。 「私が案内できるのはここまでみたいです」 「え? でもまだ俺、話が終わって――」 「大丈夫だと思います。彼は逃げも隠れもしませんから」
でも、迷いはするだろ。 胸中でつぶやきつつも、少年と少女は霊園を後にした。
過去日記
2004年09月12日(日) 顔文字について考えてみた 2003年09月12日(金) 今だけ
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